輸入制限に抗議の辞任 トランプ政権「現実派」去る
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権で大型減税などを主導したコーン国家経済会議(NEC)委員長が6日、辞任を表明した。トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を検討するなか、発動阻止を求めた抗議の辞任と位置づけられる。政権内で数少ない国際協調派のコーン氏が去ることで米政権は一段と保護主義に傾き、市場が好感した経済成長戦略も揺らぐ懸念がある。
コーン氏が突如辞任を表明すると、米市場で株価指数先物が急落した。同氏はゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者(COO)から政権入りし、1.5兆ドル(約160兆円)の大型減税を実現した功労者だ。経済政策の司令塔として北米自由貿易協定(NAFTA)離脱などトランプ政権が掲げる過激策を封じる役目も担ってきた。
コーン氏は経済政策に関してトランプ大統領にもの申すことのできる政権の大物幹部といえるが、両氏の確執は誰もが知るところだった。成長重視で企業経営の観点からも現実派のコーン氏と、「米国第一」で保護主義に走るトランプ氏とは路線が異なるためだ。
トランプ氏は1日、ホワイトハウスに鉄鋼・アルミ各社の首脳を集め、その席上で鉄鋼に25%、アルミには10%の関税を課す輸入制限を発動すると表明した。コーン氏は直前までこの日程を知らされなかった。
輸入制限は2月に米商務省がホワイトハウスに提言し、トランプ大統領は4月中旬までに最終決定する段取りだった。世界貿易機関(WTO)ルールに抵触しかねない輸入制限は、報復措置を招く恐れがある。コーン氏は、トランプ氏に「貿易戦争になる」「国内雇用にもマイナスだ」「株価が急落する」と説き、発動阻止に動いていた。
「コーン外し」に動いたのはトランプ氏の旧友であるロス商務長官と、猛烈な中国批判で知られる元経済学者のナバロ通商製造政策局長。両氏は大統領選で「中国に45%の関税を課す」などの過激公約を立案し、その後の勝利につなげた。トランプ氏は秋の中間選挙を控え、自身の原点といえる強硬路線を推す両氏を再び重んじ始めていた。
トランプ氏は輸入制限を週内に正式発表する方向で調整している。その直前にコーン氏が辞任を決断したのは、トランプ氏の翻意が難しいと悟ったためとみられる。与党・共和党の重鎮も公然と輸入制限に異を唱え、欧州や中国は報復に動く構え。米政権は国内外で孤立感を深めている。
コーン氏はゴールドマン社長を10年務め、同社出身のムニューシン財務長官らよりも実業界では格上だ。ブランクファイン最高経営責任者(CEO)の後継候補とされたが、かなわず退任。大物経済人が尻込みする中で政権入りしたのは、ウォール街で成就し切れなかった権力への強い欲求があったからとされる。
コーン氏はアルミサッシの販売員から証券界に飛び込んだたたき上げ。だからこそ、大統領選で反エリートを掲げたトランプ氏も当初はコーン氏を重用した。国際会議でコーン氏に交渉役を任せることも多く、一時は「次期米連邦準備理事会(FRB)議長の最有力候補」と公言した。
トランプ氏との確執が表面化したのは2017年夏。ネオナチを含む白人至上主義をトランプ氏が擁護したとされる発言からだ。ユダヤ系のコーン氏は発言を公然と批判。FRB議長ポストもパウエル氏に奪われ、税制改革成立後にも辞任説が流れた。
コーン氏は環太平洋経済連携協定(TPP)復帰も働きかけていた。トランプ氏は6日、ツイッターで「後継候補はいくらでもいる」としたが、トランプ氏に追従する通商強硬派が就けば、政権の「米国第一主義」は歯止めが利かなくなる。