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ビデオ判定承認に内包されたサッカーの危機

サッカージャーナリスト 大住良之

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サッカーの競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)が「ビデオ副審(VAR=ビデオ・アシスタント・レフェリー)」を承認した。世界の統括機関である国際サッカー連盟(FIFA)の外に置かれ、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの英国4協会とFIFAで構成される。毎年3月上旬に開催される年次総会でルールの改変などを決定する。今年の年次総会は3月3日にスイスのチューリヒにあるFIFA本部で開催され、「全会一致」でVAR導入を決めた。

IFABのルール改正決議案は英4協会が各1票、FIFAが4票を持ち、投票の4分の3、すなわち6票以上取らないと可決されない。FIFAの意向だけでは決まらない。ただ、FIFAはジャンニ・インファンティノ会長が2年前から「2018年までに正式承認してロシアで開催されるワールドカップで使用する」と明言しており、4票が賛成に回ることは確実だった。

しかし、欧州で広く「テスト運用」が行われた結果、選手やコーチたちから「時間がかかりすぎて試合の流れが途切れる」と反対意見が出ている。英4協会から一つも反対意見が出なかったのは驚きだった。

ともかくVARは正式にルールで認められることになった。3月16日に南米コロンビアの首都ボゴタで開催される「FIFAカウンシル(旧理事会に代わる会議体)」で、FIFAはワールドカップでのVAR使用について審議するが、それは形式的なものにすぎない。

結果に影響与える重要事項だけ

VARシステムを簡単に説明しておこう。これまで通り試合は主審1人、副審2人、そして第4の審判の計4人で進められる。しかし(1)ゴール(2)PK(3)一発退場(4)警告、退場の人定――の4項目で、主審の判定に誤りの可能性があるときに限り、VARが主審に注意をうながす。

ビデオ判定は2人(VARとアシスタントVAR)で行い、スタジアム外の特別施設で映像オペレーターの協力を受けて上記4つの場面を検証する。そして明らかに間違っている場合、あるいは主審自身が映像を見直して判断する方がいい場合にその旨を無線で主審に伝える。

重要なのは、VARが介入するのが上記の「試合結果に影響を与える重要事項」だけであることだ。ボールがどちらに触れてタッチラインに出たのかなどは、すべてピッチにいる審判員の判断に任せられる。

IFABがVARのテスト導入を認めたのは16年3月。以後、20を超す国で1600以上の試合で使われてきた。FIFAも16、17年のクラブワールドカップ、17年のU-20(20歳以下)ワールドカップ(韓国)、コンフェデレーションズカップ(ロシア)で実際に使ってテストを重ねてきた。

今回のIFAB年次総会で示された約1000試合の検証データ(ベルギーのルーベン・カトリック大が分析)によると、VARを使っていなかったときの上記4項目の判定精度は93.0%だったが、VARを使った試合では98.8%に達したという。

重大なミスが減少したのは非常によいことだ。

しかしVAR導入は、それ以上にサッカーの重大な危機をはらんでいると私は考えている。

一つは審判員の自信喪失、あるいは意欲低下だ。

英国の名物記者ブライアン・グランビル氏はVARを「Spy in the sky(空からのスパイ)」と表現したが、私の感覚では天にいる「全能の神」である。主審のイヤホンから聞こえるVARの声はまさに「天の声」だろう。

オフサイドかオンサイドか、PKかそうでないのか、審判たちは瞬間的に判定することを求められている。副審との協力、2人でプレーを違う角度から見ることを通してより正しく判定しようと、彼らは血のにじむような努力をしている。

脳裏に「全能の神」ちらつく?

ところが、試合を決定づける重要な判定をしようとした瞬間、彼らの脳裏に「全能の神」の存在がちらつく。間違った判定をして否定されるよりは、「神の声」を待とう――。私が見たU-20ワールドカップでは、そうした審判たちを何人も見た。彼らは全員、今年のワールドカップの候補者たちだ。「全能の神」の前でそうしたトップクラスの審判たちが自信喪失し、どんなに難しい状況でも自ら判定するという、審判にとって最も重要な姿勢を放棄してしまうのは、判定ミスよりも重大な問題ではないだろうか。

もう一つは、選手やファンが審判員を信じなくなることだ。

現在でさえ、選手たちはことあるごとに審判員に言葉やジェスチャーで異議を唱える。明らかなファウルをした選手が「ボールにいってるよ」「なぜ」などという態度をとるのを、私たちは日常的に見ている。

もちろんトップクラスの試合でしか実施できないが、VARが日常的に見られるようになったら、選手たちはさらに図に乗るだろう。すでに私たちは欧州の試合でVARを要求するジェスチャーを毎試合のように見ている。

選手たちの態度はファンにじかに伝わる。ファンはささいな判定にまで審判たちに不信感を持つようになり、「『天の声』を聞いてほしいものだ」などと考える。

サッカーという競技は、「判定は審判員に任せよう」という考え方で成り立っていることを忘れてはならない。誤審もあるだろう。しかしそれもサッカーのうち。誤審で損をした次の試合では、誤審で得をすることもある。審判員たちが正しく判定するために一生懸命に走り、よりよいポジションを取ろうとしていることを信じ、判定を受け入れるというのが「サッカーの文化」というものだと、私は思っている。

その文化が消え、すべての事象で「正しい判定」を求めるようになったら、そして選手やファンが「誤審」と感じてこだわるようになったら、サッカーという競技は成り立たなくなる。

155年間のサッカーの歴史の大半にわたって、判定は人間の目と頭だけで行われてきた。12年にボールがゴールラインを通過したかどうかを精密に判定する「ゴールライン・テクノロジー(GLT)」導入が承認され、同時にゴールライン裏に新たな副審を配置する「追加副審」も認められた。これらはともに何年間ものテストを経て導入されたもので、運用方法も熟成されていた。しかし、今回のVAR承認はテスト運用からわずか2年という早さ。技術的にも文化的にもまだ混乱のさなかにある。

今年のワールドカップに間に合わせようという性急さが、大いにひっかかる。

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