日産とルノー、完全統合にらむ ゴーン氏後へ備え
仏ルノーと日産自動車が実質的な「完全統合」を視野に動き出した。ルノー最高経営責任者(CEO)であるカルロス・ゴーン氏の退任後をにらみ、同氏に依存しない企業統治の仕組みを整える狙いだ。ただ、両社の経営一体化は日産を影響下に置きたい仏政府が求めてきたもの。日産社内には仏政府の関与が強まることへの警戒感もある。
「重点部門の機能統合を強化することで、相乗効果を持続的に増大できる」。ルノー・日産・三菱自動車連合の3社の会長を兼務するゴーン氏は1日、日本経済新聞などの取材にこう説明した。
1999年の資本提携後、ルノーと日産はゴーン氏の指揮の下、車台やエンジンなどの部品共通化を進めてコスト競争力を高めた。2つの会社が経営資源を相互に補う緩やかな連携によって業務効率を高め、三菱自を含む世界販売台数は独フォルクスワーゲン(VW)やトヨタ自動車に並ぶ規模にまで増えた。
ただ、緩やかな連携をリードしてきたゴーン氏も4年後にはルノーCEOの任期が切れる。3社の企業連合を「不可逆的」にするために、ゴーン氏の退任後を見据えた体制作りに着手する必要がある。3社で機能統合が拡大すれば、「事業の効率を高めて、企業連合の持続性をより確実にできる」(日産の西川広人社長)という理屈だ。
ただ、ゴーン氏らの説明を額面通りに受け取る向きは少ない。今回の決断は資本を含めたルノーと日産の経営一体化に向けた布石であると受け止められている。
今年6月のルノー取締役の改選期にあたり、筆頭株主である仏政府は経営陣の若返りを求めていたとされる。人事交渉の過程では、一時はゴーン氏のCEO退任観測まで浮上。ゴーン氏は自らの続投を仏政府に認めてもらう条件として、かねて仏政府が求めていたルノーと日産の経営一体化の要求の一部を受け入れたという見方もある。
2017年5月の就任後、支持率が4割台に落ちたマクロン仏大統領にとって、国内雇用の創出は待ったなしの課題だ。17年春に日産が欧州で発売した主力小型車「マイクラ(日本名マーチ)」をルノーの仏フラン工場で生産した実績もあり、マクロン大統領は日産車の仏国内での生産拡大に意欲的とされる。
だが、ルノーと日産は新型車の生産拠点の選定にあたり、世界中の工場に生産性を競わせることでコスト競争力を高めてきた。仏政府の介入によってこうした原則がゆがめられる恐れがある。
仏政府とルノー・日産連合は株式を長期保有する株主の議決権を2倍にできる「フロランジュ法」をめぐり、15年ごろにも激しく対立した。
これまで仏政府の介入をあからさまに嫌ってきたゴーン氏だが、「(3社連合の)資本構成を変えようとするなら日仏政府の合意が必要だ」とも発言した。ゴーン氏は「何かを準備しているわけではない」としつつも、今後は3社の間の持ち株比率の変更もあり得るとの立場を示している。
自動車業界の世界的再編から約20年。資本の論理を優先しがちな提携がことごとく失敗に終わるなか、緩やかな連携によって成長を続けてきたルノー・日産連合は数少ない成功例だ。だが、仏政府の介入の結果、ルノーと日産の独立性が損なわれる事態になれば、従来の成功パターンを維持できなくなる恐れもある。