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選手の未来まで幸せにしてあげたい

対談 岩政大樹×岩出雅之(帝京大ラグビー部監督)

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 サッカー元日本代表の岩政大樹が見聞を広げるため、1年にわたって各界のリーダーと対談を重ねてきた。最終回の今回は帝京大学ラグビー部を率いて、全国大学選手権の連覇を9まで伸ばしている岩出雅之監督に指導哲学を尋ねた。

岩政 帝京大ラグビー部での指導を始めるまでの話を聞かせてください。

岩出 20代でいろんなことを経験しました。日本体育大学で教員資格を取り、滋賀県の教員採用試験で合格したけれど、すぐに教育現場に出られず、最初は教育委員会からの出向で公園施設の管理の仕事に就きました。その後、中学校の教員になってノックもしたことがないのに野球部の顧問を務め、次は高校の進学校の教員になり、バスケットボール部で指導をしました。私自身、未熟でしたが、ラグビーの指導をしたいという気持ちが強く、心の底には面白くない気持ちがありました。振り返ってみると、あの時代が一番勉強になりました。ちょっと遠回りしたけれど、あの経験がいまのチームマネジメントにとても生きています。あれがなかったら帝京大を優勝させることはできなかったかもしれません。

岩政 専門外の競技の指導をしたのが大きかったのでしょうか。

岩出 力も経験もない、何もわからないという状態で、もまれました。そのおかげなのか、何かをつくり出して、ゼロを1にする力をつけることができたと思います。ゼロを1にできたら、2にも3にも20にも30にもできます。専門外なのに野球部もバスケットボール部も勝たせることができました。野球は県大会で優勝に導き、バスケットも弱いチームなのに県の準決勝までいきました。準決勝では「50点取ったらウチの勝ち」という目標を設定したので、80点取られて負けたのに、50点に到達した時点でみんなバンザイして喜びました。厳しい相手なので、現実的な目標を目指したほうが楽しいのではないかと、前向きな気持ちで集中する方法を考えた結果でした。

岩政 その後、ラグビーの指導をすることになったわけですね。

岩出 30歳のときに八幡工業高校(滋賀)のラグビー部の監督に就任できて、7年連続で全国大会に出場しました。その後、高校日本代表の監督も務めました。それでも、もの足りなくなって大学で指導がしたいと思い始めました。すると道が開けて、1996年に帝京大の監督に就くことができました。

岩政 指導哲学というと大げさかもしれませんが、どのような方法論で指導しているのですか。

岩出 若いうちは達成意欲が強くて、自分自身が勝ちたくて仕方がなかった。年齢を重ねていくと、それほどがっつかなくなりました。選手に勝たせてあげたいという思いが強まり、さらにいうと、今だけでなく未来の幸せにつながる力をつけてほしいと考えるようになりました。視点が自分中心から相手中心になりました。そういう中で方法論が変わってきました。育てるとか、導くというのではなく、本人が行きたい方向にうまく向かわせてあげるというイメージです。選手のモチベーションが上がり、努力していける環境をいかにつくっていくかが大切です。指導者のスタンス、考え方によって方法論は変わってきます。

岩政 中心は相手であるとか、選手の未来まで幸せにという考え方は指導をしながら培われたものですか。

岩出 指導者としての力量がないと、そうはなれません。昔の指導者のように命令で強制しても、人は動きません。

岩政 僕はもともとプロになろうと思っていたわけではないからなのか、「オレが、オレが」というプロの生き方と合わない部分があります。人を輝かせ、人の未来につながるようなことをしたいと考えています。昨年から社会人リーグの東京ユナイテッドでプレーしながら指導も始めました。選手たちの力で勝てるように導いてあげるのは、すごく時間がかかりませんか。

岩出 指導者に命令されて動いても、それは一時的なものです。モグラたたきの繰り返しのようなことになります。時間がかからない方法を選んでいるようで、実は時間がかかります。相手を納得させるアプローチ、自分で気づくようなアプローチをしたほうが結果として早いと感じています。

岩政 納得させないと、問題解決にならないからですね。

岩出 人は納得しないと動きません。ゴムを無理に引っ張っても戻ってしまいます。自分が伸ばしたいと思わせる必要があります。いまは自己主張が美とされる時代です。自己主張をすると、生意気だ、変なくせがあるといわれた時代とは違います。昔の指導者のように命令で強制していたのではスポーツが嫌いな人間を増やすだけです。

岩政 指導現場において「選手に自分で考えさせろ」とよくいわれまますが、それができる選手はなかなかいません。

岩出 自分で考える選手を育てる力を持った指導者がいないからでしょう。

岩政 そういう中で育ってきた選手にどういう言葉をかけてあげたらいいのでしょう。「勝ちにいくぞ」というと思考が止まってしまいがちです。

岩出 勝利という結果ばかり追い求めるのは、映画館に入って、すぐにラストシーンを想像するようなものです。映画には60分、90分の面白い時間があるのに、そこを楽しまなかったら面白くないでしょう。プロセスをしっかり楽しませるアプローチが必要です。

岩政 選手にプロセスの部分の話をすることが多いのですか。

岩出 結果についてだけ話していると選手は心理的に混乱し、プロセスを大切にしません。中身も楽しめません。また、スキルのレベルが低いのに、精神的なチャレンジのレベルが高すぎると不安が募るだけです。逆にスキルが高いのにチャレンジレベルが低いと気が緩んでしまいます。チャレンジレベルとスキルのレベルが合ってなくてはいけません。

岩政 最適なところを選んで目標を設定するわけですね。

岩出 最適難度を与えて、そこでフィットしたら自信がつきます。本人の力量のほんの少し上の現実的なターゲットを与える必要があります。

岩政 適切な目標を与え続けているから、帝京大は勝ち続けているのですね。

岩出 若い指導者は自分を見直さず、相手ばかり見て引っ張っているから、選手に反発されたり、同じことの繰り返しになったりすることが多いと思います。それでは選手のインテリジェンスをくすぐることになりません。「こうやれ」といってしまうと、指導者が主体になってしまいます。選手がやろうとするカルチャー、自分たちで考えるカルチャーを築いていくことが重要です。

岩政 僕が所属していた鹿島アントラーズにも、選手たちが文化を受け継いでいくという空気があります。

岩出 いい見本があり、発想や発言があり、習慣や象徴的な行動があり、そういうものが重なっていくと文化ができます。

岩政 文化を構築するまでが難しいのではないでしょうか。

岩出 選手も指導者も未熟だと、焦ったり、いらいらしたり、どなったりして、どんどんよくない方向にいきます。余裕をつくらなくてはなりません。

岩政 たぶん、いまの僕が到達できる領域ではないと思います。

岩出 そんなことはありません。そう考えて、自分でストップをかけているんじゃないでしょうか。僕も1年前の自分と同じではないし、2年前とはかなり違っています。1年前だったら、こういう話ができなかったかもしれません。指導者は常に自分を変えていかなくてはなりません。

岩政 自分を上書きしていくということですか。

岩出 上書きではありません。イノベーションを起こしていくイメージです。

岩政 ガラッと変えるわけですか。

岩出 ガラッと変えられるかどうかは細胞の能力によります。ニュースタート、ストップ、コンティニューで「SSC」といっているんですが、何を変え、何を変えずに守っていくのかを考えています。

岩政 「C」においているのはベーシックなもの、たとえば規律ですか。

岩出 生活面でのベーシックなものも入ります。あいさつをするとか。でも、あいさつをしなさいとは言いません。自分からできるようにしないと意味がありません。形から入るのではなく自然体で身につけさせたいと考えています。「こうやれ」といわれても面白くないでしょう。

岩政 選手のプレーを見ていて、どういうことがあったら指摘するんですか。

岩出 失敗しても指摘はしません。黙っていても本人はかわかっていますから。でも、本人がわかっていない失敗の場合は「いまのどう思っているの?」と問いかけます。質問されると気づきます。そうやってイマジネーションやクリエイティビティーが伸びる脳にしていきます。

岩政 本人がわかっていないときに質問をするのは判断の部分ですか。

岩出 いいものを選手が自分で探すために聞いてあげます。自分で探すために聞くのと、自分が持っているものに気づかせるために聞くのとでは違いますが、両方あっていいと思います。心から共感できることには、お世辞ではなく「それ、いいぞ」と言ってあげます。

岩政 僕は天邪鬼(あまのじゃく)なので、いろいろな場面で「それは違うんじゃないですか」と言ってしまいます。

岩出 それは天邪鬼ではありません。正しい判断ですよ。そういうことが言える人間がたくさんいたほうが面白い。それをつぶしたらチームは進化しません。

岩政 それにしても9連覇とはすごいですね。連覇している間も守るのではなく、変わり続けるわけですね。

岩出 僕自身もどんどん変わっていきます。完成はないんです。未完です。こうしたほうがもっとよくなるんじゃないかと考え続けています。今年は「C(頭文字がCの言葉)をつくろう」と言っています。たとえばチャレンジ、チェンジ、コミュニケーション、ケア、コンプリート……。どんどんクリエイティブになっていって、最後にしっかりチャンピオンになる。「C」をどんどんつくっていったら中身が濃くなるはずです。

岩政 人の発想を変えるためには、相手の心理の部分にどんどん入っていくわけですか。

岩出 僕は大学でスポーツ心理学を担当しています。授業で心理学を担当するようになってからチームが勝ち始めました。現場での経験をアカデミックにスキャンしていくと、無駄が省かれ、バランスがよくなり、整理されてきました。

<対談を終えて>…「考えられる選手」という命題
 最終回にふさわしいお話をいただいた。岩出監督に導かれた帝京大学ラグビー部は、勝ち続けることが難しいとされるスポーツの舞台で、なんと9連覇を達成している。いや、「勝ち続けることが難しい」といってしまうと、岩出監督は「自分で限界をつくっていないか?」と返すだろう。
 勝ち続けながら上積みでなく、変化、イノベーションを起こしていく。それも、それぞれが自立し、考えることができる組織の中では当たり前だということか。
 この対談連載の中で、自然にテーマとして絞られてきたのが「考えられる選手とは?」「自立した選手とは?」という命題だった。変わりゆく時代の中で、それはラグビーやサッカーに限らず、あらゆる分野で共通して求められている。
 しかし、その入り口に立ったとしても、そこからどこにどのように足を踏み出していいのかわからず、結局、立ちすくんだり、後戻りしたりしてしまう人ばかりだろう。
 何事も理論は理論にすぎない。実践し、実現していくことはそのはるか遠くにある。
 僕が行きたい場所にたどり着いている岩出監督との対談は、自分がずっと試されているようで、考えさせられた。対談を終えて、そこに気づいたが、まさにこれこそが岩出監督のすごさなのだ。
 僕もサッカー選手になるまでは教育者を志していた。いまは指導者として、あるいは父親として、選手や子どもが何かをさせられるのではなく、自ら考え選んでいけるような接し方のバランスを探している。しかし、いまの僕はまだまだだ。
 ではどうする?
 自ら日々考え、選び、トライしていくしかないだろう。そこにはきっと失敗があり、反省がついてくるが、そこからまた次へ向けて考えることを始めよう。相手の立場に身を置いて、その人の心理から考えることを忘れないようにしながら。

岩出雅之(いわで・まさゆき) 1958年、和歌山県新宮市出身。日本体育大学ラグビー部で活躍し、78年度の全国大学選手権で優勝。中学校教員などを経て八幡工業高校の教員となり、ラグビー部を7年連続で全国高校選手権に導く。高校日本代表監督を経て、96年から帝京大ラグビー部監督。2009年度に全国大学選手権で初優勝してから9連覇中。帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科教授。

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