NEM追う善良ハッカー 流出状況の解説サイトも
仮想通貨交換会社コインチェックから流出した約580億円分の仮想通貨NEM(ネム)の行方を「ホワイトハッカー」と呼ばれる善意の技術者が追う動きが広がっている。追跡プログラムの作り方やNEMの行方を解説するサイトも登場した。一方で流出したNEMは多数の口座に送られるなど、詳細な追跡は困難で、流出に関与した人物の特定には至っていない。
情報技術に詳しい客や店員が集まる東京・六本木の飲食店「ハッカーズバー」。店員の浜辺将太さん(34)がカウンターに置いたパソコンに文字列を打ち込むと、コインチェックから流出したNEMの口座アドレスが抽出されて店内の大型画面に映し出された。
IT企業のプログラマーを兼ねる浜辺さんは、ハッキング技術をサイバー攻撃の阻止など善良な目的に使うホワイトハッカー。技術者として仮想通貨の将来に注目していた。「(流出問題で)仮想通貨に悪いイメージがついたが、本当は情報伝達やビジネスを大きく変える可能性があることを伝えたい」といい、流出直後からNEMの行方を追い、バーの客らに現状を説明してきた。
NEMの追跡にはホワイトハッカーが貢献してきた。代表的な存在が、短文投稿サイトのツイッターで通称「JK17」と名乗る人物だ。1月26日未明の流出直後に流出先の口座を特定し、目印を付けて追跡を開始。国際団体「NEM財団」に作業を引き継いだ。
ツイッターの名前から一時はネットで「17歳の女子高校生か」と話題になったが、同財団によると、以前からNEMの普及に協力してきた技術者という。こうしたホワイトハッカーの活躍に刺激され、追跡に協力する人が相次いでいる。
流出したNEMを自動で追跡するプログラムの作り方を紹介するサイトのほか、ツイッターにはNEMの分散状況をイラストで分かりやすく解説するアカウントが登場。情報セキュリティーの専門家によると、流出したNEMの動きを監視してネット上で情報発信するホワイトハッカーは少なくとも数十人いるという。
ただ流出に関与した人物は、流出直後からNEMを無関係の人を含む400件超の口座に送り付けた。NEMを分散させて追跡を困難にする狙いとみられる。2月7日ごろには匿名性の高い闇サイト「ダークウェブ」でNEMと別の仮想通貨の交換を呼びかけるサイトを開設。既に90億円近いNEMをビットコインなどと交換した疑いがある。
仮想通貨とは紙幣や硬貨といった実物がなく、インターネット上でやり取りするお金を指す。専門の取引所を通じてドルや円などの通貨と交換できる。代表的な仮想通貨としてビットコインがある