好業績のソフトバンク 子会社上場で描く未来図
ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は7日、都内で開いた決算記者会見で「(米携帯電話子会社の)スプリントが貢献するようになった」と強調した。2017年4~12月期の営業利益はかつて業績不振だったスプリントの大幅な増益などを受けて前年同期比23.6%増の1兆1488億円と好調だった。国内の携帯電話事業の減益など収益環境は楽観できない要素もあるが、孫社長は強気の投資を継続する意向を改めて表明した。
SBGの17年4~12月期の連結売上高は前年同期比3.5%増の6兆8112億円。純利益は同20%増の1兆149億円となった。米携帯子会社スプリントの収益改善に加え、サウジアラビア政府などと設立した運用額が10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」事業が収益を大きく押し上げた。
スプリントではコスト改善効果が大きく、営業利益は前年同期比で約2倍の2918億円となった。19年にも次世代通信規格「5G」に活用する基地局の整備も始める。5Gでは動画配信などコンテンツビジネスの拡大にもつながる。「最も5Gを積極的に活用していく会社になる」(孫社長)という。
スプリントは17年秋、米携帯3位のTモバイルUSとの合併交渉が破談になった。孫社長は「スプリントの次の展開については真剣に(スプリントの最高経営責任者を務める)マルセロを含めて選択肢について検討している」と語った。
また、サウジ政府などと展開する投資ファンド事業では出資する米エヌビディアの株価上昇などで利益が膨らんだ。
今回の決算でも注目されたのは安定した収益を確保してきた国内携帯事業のソフトバンクだ。国内の通信事業は17年4~12月期の営業利益が前年同期比6%減の6126億円だった。顧客獲得の費用がかさんだ。
孫社長によれば、ソフトバンクが上場した後も国内携帯事業を統括する宮内謙氏が社長を務める。格安スマホサービス「ワイモバイル」の顧客拡大などで手腕を発揮してきた。先月末にはLINE傘下の格安スマホサービスを手がけるLINEモバイルと資本・業務提携を結ぶと表明した。
国内携帯事業はメーンのソフトバンク、格安スマホのワイモバイル、大手から回線を借りてサービスを提供するLINEモバイルの3つのブランドを抱える。宮内氏は「様々なユーザーに対応できる」と話す。
ワイモバイルは格安スマートフォンサービス市場で新規契約者のうち2~3割のシェアを占める。ワイモバイルとLINEモバイルが協力することで、宮内氏は「安い端末なども提供できるのではないか」と述べた。
ただ、国内市場は今後、競争が激化しそうだ。楽天が本格的に参入する計画を進めているからだ。孫社長は「色んなプレーヤーがそれぞれで役割を果たす」とし、「楽天らしい新しい切り口での参入は市場を刺激する」と指摘した。
これまでSBGの大きな課題は負債の大きさとされた。17年12月末時点で14兆円を超え、孫社長は「負債については慎重にマネージしていかないといけない」とした。
ただ、純有利子負債については「健全」であり、「いまは十分、安全な範囲の負債だと思っている」と強調した。「保有する株式の価値が半分に落ちてもやっていける」という。
ここで重要になるのがソフトバンクの上場で獲得する資金だろう。孫社長は「SBGは世界の戦略持ち株会社になり、日本の携帯事業会社は継続的な成長路線に持って行きたい」と語った。
孫社長は子会社ソフトバンクの東京証券取引所一部上場について「できれば1年以内に行いたい」と述べた。調達額は2兆円規模とみられる。孫社長は金額には触れなかったが、調達資金の使途について「財務バランスの強化とグループのさらなる成長のために使う」という。現在は社債や借り入れに頼っているが、株式市場からの調達まで選択肢が広がることになりそうだ。
孫社長は「新たな(出資)案件、会社との面談、分析に時間を費やしている」とし、「非常にエキサイティングだ。仕事というより喜びを感じる」と語った。激動の技術革新が相次ぐ「乱世」は腕の見せ所であり、子会社上場で兵糧も充実し自由に暴れ回れる。
孫社長が描くSBGの未来図は「ナンバーワンの企業の集合体」だ。ソフトバンクブランドや出資比率にこだわらず、地域やシェアなどで強みを持つ企業を傘下にそろえていく。孫社長は「群戦略によって多くの果実を得る大樹になりたい」と力を込める。
「300年、長い期間成長し続ける企業体にどうやってもっていくか」。孫氏は現在自らが抱く最大の関心事を問われるとこう述べた。上場によってグループがさらに成長するための「構え」が整うことになる。
(企業報道部 大西綾、佐竹実)
[2018年2月8日付 日経産業新聞]