現代音楽、大阪から世界に いずみシンフォニエッタ(もっと関西)
カルチャー
いずみホール(大阪市中央区)の専属楽団、いずみシンフォニエッタ大阪(ISO)の定期演奏会が10日で40回目を迎える。大阪から新たな音楽を世界に発信することを目的に2000年に発足。難解な現代音楽を活動の中心にし、初演も数多く手掛けてきた。節目の演奏会では、これまでの意欲的な活動を象徴するような作品を披露する。
1990年に開館した同ホールの席数は約800と中規模。大編成を必要としないバロック・古典派と、現代音楽に注力してきた。開館から10年間、現代音楽を積極的に取り上げ「初演魔」と呼ばれた指揮者の岩城宏之らが監修するシリーズを開催してきた。
光る技、初演36曲
00年から大阪出身の作曲家・西村朗を音楽監督に据え、ISOを発足。「関西・大阪から世界に新しいものを発信することを使命」(西村)とし、思いを楽団名の「大阪」に込めた。
40回目の節目となる定期演奏会では、歴史を振り返るような演目が並ぶ。
注目は01年2月の第1回定期演奏会で日本初演したカーゲルの「フィナーレ」だ。その奇抜さからテレビのバラエティー番組にも取り上げられ、話題を呼んだ。約25分の曲だが、20分ほど演奏したところで指揮者が倒れ、死ぬ演技をする。
日本初演を手掛け、今回も指揮する常任指揮者の飯森範親は「現代音楽の作曲家が批判と闘って、死ぬまでが表現されているように感じる」と解釈。卒倒する場面だけではなく「心地よい打楽器の音や唐突なクラクションの音など、斬新な音のアイデアにも目を向けてもらいたい」と話す。
西村のオーボエ協奏曲「四神(しじん)」も初演する。ソリストとして超絶技巧のオーボエ奏者、トーマス・インデアミューレを迎える。彼は00年7月のISOデビュー公演でも西村のオーボエ協奏曲「迦楼羅(かるら)」を演奏した。四神では4種類のオーボエを持ち替え、日本の四季を表現する。そのほか、作曲家の川島素晴がレスピーギ「ローマの噴水」を室内オーケストラ向けに編曲。ホール名にちなみ「ローマのいずみ」として披露する。
これまでもISOは岩城の精神を受け継ぎ、数多くの初演を手掛けた。世界初演は36曲で、うち委嘱作は28曲。日本初演も13曲に上る。現代曲は高度な演奏技巧を要するものが多いが、関西出身者中心の団員はいずれもソリスト級の腕前。西村は「相当な練習量をこなすことを喜びと感じる演奏家たち」とたたえる。飯森も「現代作品の初演ができる日本を代表する室内オーケストラ」と胸を張る。
動画サイトで発信
作曲家が前衛的な表現を追究する現代音楽は歴史の淘汰を経ておらず、玉石混交でもある。飯森は「これまで演奏した中で、二度とやらないだろうと思う作品もある」と明かす。
半面、ベートーベンなどの名曲を聴くのとは違った面白さがある。音楽評論家の小味渕彦之氏は「評価の定まっていない音楽の中から、キラリと光る作品を見つける楽しみは現代音楽の醍醐味」と指摘する。
ISOは08年に関西出身の若手作曲家に作品を委嘱する企画を開始。09年に初演した山根明季子「水玉コレクション4」が、新進作曲家に贈られる芥川作曲賞を受賞するなど、作曲家や作品の発掘に貢献してきた。
難解な現代音楽の演奏会は集客に苦労することが多いが、ISOの定期演奏会の観客数は毎回500人程度と比較的安定している。西村は「ファッションやお笑いと同様、関西人は難解でも新しいものを楽しんでやろうという精神がある」と分析。70年の大阪万博前後に前衛芸術が注目され、関西で現代音楽の演奏会が数多く開かれたこともISOが根付く土壌になったとみる。
15年から動画サイト「ユーチューブ」で演奏を公開するなど、新たな情報発信にも力を入れる。ターゲットは音楽に限らず、新たな芸術表現に興味を持つ人。そうした感度の高い人が交流サイト(SNS)で発信すれば、さらにファンが集まる。同ホールの企画担当者は「とがった現代音楽はSNSでの情報発信と相性が良い」と期待をかける。
(大阪・文化担当 西原幹喜)