モーグル堀島 武器はエア、王者に重圧
平昌へ メダルへの道
これほど周囲をハラハラ、ワクワクさせるスキーヤーもそうはいまい。フリースタイルスキー男子モーグルの堀島行真(20、中京大)がまたやった。1月20日、カナダ・トランブランでワールドカップ(W杯)初優勝。五輪前最後の大会で、昨季から続いたミカエル・キングズベリー(カナダ)の連勝を13でストップしてみせたのだ。
過去、非五輪種目のデュアルモーグルで3位が1度あったものの、五輪種目のモーグルは表彰台すら上ったことがなかった。種目別シーズン6連覇中のキングズベリーを連破し2冠に輝いた昨春の世界選手権(スペイン)の再現のようなジャンプアップに、「勝てる滑りが見えてきた。それを出せたのは自信になる」と手応えをかみしめる。
世界王者となってからは一躍注目を浴び、「周囲と自分の感覚が違って不安な部分もあった」。今季はW杯7戦のうち3戦は2桁順位。重圧に沈み快刀乱麻も一夜の夢かと思われたが、「平昌の直前にピークを持ってこられればと思っていた。その点では計画通り」と全日本の城勇太コーチは不敵に笑う。
「もともとシーズンの入りは悪い。そこから考えて、考えて修正していくタイプ」というスロースターターに合わせ、夏以降、実戦的な雪上練習を前倒しで練った。前年は3月の世界選手権に合わせた照準を今季は2月に。年が明けたころから「ターンが落ち着いてきて」トランブランでは真骨頂のエアがはじけた。
第1エアのダブルフルツイスト(伸身後方1回宙返り2回ひねり)は国際映像の画面からはみ出すほどに高く飛び、着地もぴたり。ここで体勢が崩れなければ板をずらすことなく、直線的にコブを攻めるその後のターンも生きてくる。第2エアも完璧に決め、93.88の高得点をたたき出した。
安定感ではキングズベリーが一枚も二枚も上ではある。しかし、打ち込んだくさびは浅くない。「追い込まれればミック(キングズベリー)もミスをする」(堀島)。直後に滑った第一人者のターンが珍しく乱れた前哨戦に攻略の糸口を見いだす。「対抗する選手がいない期間が長かっただけに、(その状況に対応する)ブランクがあるのかも」と城コーチ。無敵状態の「長すぎた春」が逆に隙だというわけだ。
五輪本番でも先に滑り、圧力をかけるのが理想の形。堀島にはキングズベリーと同じ最高難度の組み合わせで、高さでも速さでも上回れるエアがある。この武器を存分に振るって金メダルの大本命を「安全圏」から引きずり出し、焦りの生まれる状況に追い込みたい。
「ミックは世界選手権で負けた後、レベルが一段と上がった。より気も引き締めてくると思う」。尻に火がついたライバルの「本気」を警戒する堀島だが、殻を一つ破り、今は周囲の期待も「光栄と思える。金メダルを狙いたい」と言い切れる。最高の舞台で三たび番狂わせを演じた時、20歳の物語は完結する。(西堀卓司)