男子ゴルフ開幕戦 小平や石川に多くの収穫
編集委員 吉良幸雄
雷で初日からサスペンデッドが続いた男子ゴルフの今季開幕戦、SMBCシンガポールオープン(18~21日、セントーサGC=7398ヤード、パー71)は21日、2017年春のマスターズ・トーナメント覇者で世界ランク10位のセルヒオ・ガルシア(38、スペイン)が通算14アンダー、270で快勝、日本ツアー初優勝を飾った。日本・アジアツアー共催大会で4年ぶり3人目の日本人選手の勝利とはならなかったが、小平智(28)が2位タイに。また新選手会長として米ツアーから主戦場を移した石川遼(26)は予選ラウンドを首位で通過、「収穫のある1週間」と口にする選手が多かった。
小平は大会前週に米ツアーのソニーオープン(ハワイ)に出場、10オーバーをたたき、あっさり予選落ちしていた。平均飛距離とフェアウエーキープ率を換算したトータルドライビングが15年から6位、2位、1位の小平にとって、ドライバーショットは屋台骨。ティーショットでリズムをつくり、ゴルフを組み立てるのがプレースタイルだ。ところが昨秋の日本オープン(3位)で途中、クラブヘッドにひびが入るアクシデントに見舞われた。その後の試合では形や重心、重量バランスなども同じヘッドを装着したクラブでプレー。三井住友VISA太平洋マスターズでは優勝もしたが、従来の「エースドライバー」とは微妙に感覚が違い、最終戦までドライバーショットに苦しみ続けた。シンガポールでも「ドライバーを打っていると、アイアンなど他のクラブにも影響が出てどんどん調子が悪くなる」と困惑の表情を浮かべていた。
■小平、ドライバー復調に手応え
状況が好転したのが12位からスタートした3日目。前日のラウンド後、苦肉の策として元クラフトマンの三上マネジャーと2人でドライヤーでクラブを温め、ヘッド内の重量調整をするグルー(粘着剤)を動かしたところ「ドライバーの具合がよくなった」という。第3ラウンドは2打伸ばし、13番で1.5メートルのバーディーパットを残して中断。サスペンデッドとなったが「ドライバーがよくなるとリズムがとれる。気分がだいぶよくなってきた」と笑顔を取り戻した。最終日は残りホールで3バーディー。9アンダーとして4位タイで最終ラウンドをスタートした。結局5バーディー、5ボギー。スコアを伸ばせずじまいで、優勝したガルシアに5打離された。「目標を12、13アンダーに。でもガルシアはそれ以上だからすごい」と完敗を認めるしかなかった。それでもおっかなびっくりでドライバーを握っていた初日からすれば、ゴルフの内容はずいぶん違ったらしい。「(大会前は)不安だったドライバーが自信を持って打てるように。これなら戦える。収穫のあった1週間」。しっくりきていなかったというグリップについて、米ツアーでプレーしていた岩田寛にアドバイスをもらいアイアンショットも上向きに。先輩に感謝した。
昨年末の世界ランクは51位。宮里優作らに圏外にはじき飛ばされ、4月のマスターズ出場を決定することができなかった。年明けのソニーオープンから海外試合に積極的に出場。今後もレオパレス21ミャンマーオープン、欧州・アジア共催のISPSハンダワールド(オーストラリア)、3月開催の世界選手権シリーズ、メキシコ選手権、デルマッチプレーと転戦、同ランク50位以内を確保して念願のマスターズ出場を目指す。ガルシアら世界ランク上位選手も参加した今大会で2位に入り、ランク42位に浮上してオーガスタがくっきり視界に入ってきた。昨年12月の結婚式以来、ひげは伸ばしっぱなしで、日焼けした肌を黒々と覆っている。「まだまだ気が抜けない。出る試合は全部1番になるつもりで頑張る。一歩一歩着実に、こういうゴルフをやっていけばマスターズに行けると思う」と手綱を締めた。
大会初出場の石川遼は予選ラウンドを69、66で回り首位タイで折り返した。大会2日前の16日に右首から肩甲骨にかけて痛みを覚えホテルで静養、会場には姿を見せずじまい。17日のプロアマ戦出場も危ぶまれたことを考えれば、日本勢では小平、12位の稲森佑貴(23)に次ぐ16位は、まずまずの開幕戦だったのではないか。本人の話では「もともと、医者から『ストレートネックでヘルニアになりやすいので、首に気をつけなさい』と言われていた」という。米ツアー転戦中の昨年5月ころには首の左側を痛め、左肩甲骨に傷がついていると診断された。今回の痛みもその影響かもしれず、電話で医者に相談。アイシングなどケアに努めながら何とか4日間プレーした。ただ"後遺症"で「トップが(うまく)入らず、ダウンスイングで体の開きが早かった」と石川。「(74、71の)3日目、4日目はショットがバラバラ。苦しいラウンドになり、優勝争いができなかった。体が開かずにダウンスイングができてくれば問題はないが……」と悔しさをかみしめた。
■石川「まだまだ練習足りない」
最終日の最終18番では10メートルを沈めバーディーフィニッシュ。初日からロングパットがさえさえわたり、4日間を通じた平均パット数は1.5882で1位だった。21バーディーも1位。半面、フェアウエーキープ率は44.64%で、決勝ラウンドに進んだ68人中67位。パーオン率も70.83%(33位)にとどまった。左ドッグレッグで打ち下ろしの3番(パー4)では、第1ラウンドから3番ウッド、2番アイアン、ドライバーを握り、3日続けて左林に打ち込み、ダブルボギー。ティーインググラウンドからは右サイドがかなり狭く見えるため「僕はドローヒッターで右からの風。右に打ち出してはいけない。ドロー、フェードの曲がり幅が大きいと、ロケーションによって困る時が出てくる。ティーショットはなるべくストレートを打っていかないと」と話した。予選で一緒に回り「優勝候補ナンバーワン」と見ていたガルシアがフェアウエーキープ率78.57%(3位)、パーオン率90.28%(1位)だったのに比べると、スイング改造中の石川のショットはかなり見劣りするといわざるを得ない。「初日、2日目である程度手応えをつかんだけれど、4日間もたなかった。こういう難しいコースで4日間もたなかったということが(今後に向け)収穫。まだまだ練習が足りない。練習あるのみ」と課題を口にした。相変わらず小技は秀逸なだけに、本人も言うようにドライバーで安定感を求めつつ、アイアンとパットを磨くことがこの先、米ツアー再挑戦を目指すには重要になってくる。
今大会は全英オープン選手権アジア最終予選を兼ね、ガルシアや昨季賞金ランク2位の小平ら、既に出場権を持つ選手を除く4人に全英オープンへの切符が与えられた。しかし結局、日本勢はゼロ。大会前に「トップ4を目指す」と意気込んだ稲森も一歩及ばなかった。通算7アンダーなら「当選」だったが、5アンダー。「全然だめ。潔くあきらめます」と苦笑した。それでも「これまでやっていることが順調に進んでいるかな」と手応えも。賞金ランクは14年の75位から29位、26位、20位と着実に前進し、目標のツアー初優勝も近いはずだ。堅実なゴルフでショートゲームを武器とし「課題はもちろんパット。ポカをなくして1打でもよくしないと」。
昨季の賞金王、宮里優作(37)は初戦のソニーオープンで予選落ちし、今回も1オーバーの40位に終わった。ただ最終日は「ショットはだいぶつかんだ。よくなっている。体は思うように動いているし、(この先)かなりいい状態でいける。ちょっと自信に」と笑顔をのぞかせた。昨年は優勝争いし、6位だった今週25日開幕のレオパレス21ミャンマーオープン、欧州・アジア共催のメイバンク選手権(マレーシア)、ISPSハンダワールドと続く、残り3連戦での活躍が期待できそうだ。