コロプラ、白猫訴訟で見えた「崩れたミルフィーユ」
証券部 渡辺夏奈
コロプラが岐路に立っている。同社は10日、主力のスマートフォン(スマホ)ゲーム「白猫プロジェクト(白猫)」にいくつかの特許権侵害があるとして任天堂に提訴されたと発表。最悪の場合、白猫が配信停止に追い込まれる可能性もあるとして、翌11日には株価が一時22%下落した。訴訟は図らずも、コロプラが掲げてきた戦略が機能していないことを浮き彫りにしてしまった。
コロプラはこれまで、新作ゲームを続々と投入し、収益を積み上げる経営を目指してきた。その名も「ミルフィーユ戦略」。生地が何層にも重なった洋菓子になぞらえている。実際、コロプラの売上高や利益の推移をグラフで見ると、過去には、主力アプリの売り上げがピークアウトしても、新たに配信したアプリの売り上げが上積みとなって全体の収益が拡大していたのが分かる。
だが、その戦略が2016年9月期を境に機能しなくなっていることも、一目瞭然だ。白猫以降にめぼしいヒット作に恵まれず、それまでのアプリの落ち込みを補う新たな層を作れなくなっている。結果、「単体の売上高(506億円)に占める白猫の割合は約4割にのぼっていた」(国内証券)だけでなく、白猫の落ち込みとともにコロプラの売上高全体も減少する収益構造に変わってしまった。
スマホゲームは競争が激化し、ヒットを生むのが難しくなっている。関係者は「人気キャラクターを使ったものや、よほど新しい遊び方のできるゲームでないとヒットしない」と口をそろえる。参入企業の増加で配信本数が増え、ひとつひとつのゲームにユーザーの関心が集まる確率も低くなっている。複数の稼げるゲームを抱えられるのは「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」を抱えるスクウェア・エニックス・ホールディングスなど、ごく少数だ。
もちろんコロプラ側も手は打っている。足元では仮想現実(VR)関連の研究開発や、ディズニーなどのキャラクターを使ったゲームにも注力する。ただ今のところ収益への貢献度は小さく、ミルフィーユの新たな層を積み上げるには至っていない。
「任天堂が本気を出してきた」。コロプラが提訴を発表した10日、インターネット上にはこんな書き込みがあふれた。任天堂は損害賠償や遅延損害金の支払いだけでなく、白猫の差し止めを求めたからだ。最悪の場合、白猫は配信停止に追い込まれる可能性もある。クレディ・スイス証券は10日に、目標株価をそれまでの1100円から700円に引き下げている。
訴訟発表から1週間強が経過し、株価は900円台後半でひとまず下げ止まっている。「白猫が生み出すキャッシュフローを加味すれば、900円台は妥当とみる投資家が多い」(エース経済研究所の安田秀樹アナリスト)との指摘もあり、市場は白猫のお取り潰しまでは織り込んでいないようだ。
だが、700円台だろうと900円台だろうと、実は大きな違いはない。ミルフィーユ戦略がほころびを見せ始めた16年9月期の第1四半期にあたる15年10~12月に比べると、現在の株価は半値以下になっているからだ。問題は訴訟を起こされたことではない。すでに幻と化しているといってもいい、ミルフィーユ戦略の見直しを怠ってきたことではないだろうか。
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