NTTコム庄司社長「ラグビー部強化へ積極投資」
ラグビーのトップリーグで近年、目覚ましい投資をしている企業が通信大手のNTTコミュニケーションズだ。有力選手の獲得にとどまらず、今春には国内最先端の設備を備えた新グラウンドやクラブハウスも完成する。その狙いを庄司哲也社長に聞いた。
■ラグビー部は会社の縮図
――ラグビー部のシャイニングアークスは2010年のトップリーグ昇格後、順位を上げ16年度には5位になった。今季は9位だったが、徐々に力をつけてきている。強化する理由は。
「ラグビーファンは経営者をはじめ、世界中にいるし、ラグビーは(代表チームへの参加条件などで)必ずしも国籍にこだわらない。我々もグローバルに事業展開をしており、ラグビー部は会社の縮図でもある。こういうチームを持つことは海外でも非常にシンボリックに受け止めてもらっている」
――日本代表のアマナキ・レレイ・マフィら有力選手も多く抱える。
「社員を中心にしながら外国人やプロ契約の選手を4分の1以内で入れているが、プロ選手でも職場への帰属をはっきりさせている。職場に活躍する選手がいれば社員も応援したくなるし、いい刺激になる。サポーターズクラブもあり、社内外で応援してくれる人は1万人くらいになった」
――ラグビー部が会社にもたらす恩恵は。
「部員には各職場の営業支援など事業への貢献をしてもらっている。年に1度、お客様を呼んで開く感謝の集いでもパフォーマンスをしてもらっている。ラインアウトのリフティングやスクラムの模擬をしたり、パスでボールをつないだり……。主将の金正奎のスピーチも立派で、彼が社長をやった方がいいんじゃないかって思うくらい」
「トレーニングや食生活のノウハウを社内外に披瀝(ひれき)したり、ヨガ教室の指導など、『皆さんも健康増進のためにここまでできますよ』というのを実践してもらっている」
――千葉県浦安市に新グラウンドをつくる。
「今のグラウンドが手狭になったのと『6位に入ったらグラウンドをつくろう』と言っていて、実際に昨季(過去最高の)5位になった。場所を探していると、生涯スポーツ健康都市宣言をしている浦安市からいい声が掛かった」
■浦安に新施設、スポーツのデジタル化の拠点に
――新グラウンドにどういう効果を期待するか。
「会社としてますます強化に本気を入れると伝えられる。グラウンドは2面あり、屋内練習場はキックができるように天井が高くなっている。疲労回復のための流水プールもある。選手が『これで強くならなければどうするんだ』と思ってくれる施設にしたい」
――チーム強化以外の新施設の活用法は。
「我々はICT(情報通信技術)ソリューションを提供しており、スポーツのデジタル化も考えている。『hitoe(ヒトエ)』というバイタル(生体)情報を集められるウエアラブルのデバイスを持っており、選手の動きも映像で分析できる。グラウンドをそのショーケースにしたい」
「ICTのサポートでスポーツがこれだけ面白く見られるというのも知ってもらいたい。ラグビーや他のスポーツでVR(仮想現実)体験ができる映像コンテンツも流したい」
――浦安市の人にも喜んでもらえるのでは。
「地元の健康増進へのサポートができると思う。週末やオフにはクラブハウスやジムを開放したい。選手がトレーニングのお手伝いをすれば、グラウンドに親しみを持ってもらえて、市民の集いの場所にもなる。名前も『スポーツラボラトリー』などの形で親近感を持ってもらいたいし、社内外で募集したい」
■19年W杯、部員がサポート役に
――19年ワールドカップ(W杯)日本大会にはどう関わるのか。
「チームから1人でも多く日本代表に選ばれるといいが、施設をW杯のために提供することも考えている。浦安市がメインとなり、大会中の合宿地として代表チームを海外から誘致しようとしている。ニュージーランドやイングランドが来て練習すると選手にも刺激になる。サポーターズクラブの人も見学できればとてもいい」
「部員にはサポーターとして大会を盛り上げる役割も期待している。外国語に堪能な選手もいて、試合会場や練習場でガイドができる。浦安は成田空港からのアクセスもいいし、アスリート社員がコンシェルジュをやれるといい。『ホスト国としていろいろなおもてなしができるはずだよ』と言うつもりだ」
――今後のラグビー界のあり方は。日本ラグビー協会はトップリーグを20年に新リーグに変える方針だ。
「19年W杯で高まるラグビー人気をどうしたら維持できるか。アマチュアからちょっと離れたJリーグタイプの形でトップリーグを運営する方向はある。新日鉄釜石(現釜石シーウェイブス)は今でもファンがいる。浦安のグラウンドは地元密着の試金石だと思う」
――チームに企業名がなくても問題はないか。
「浦安のチームだとみんなが思ってくれるなら『浦安シャイニングアークス』でもいいのかもしれない。地域名と企業名の混成でもいい」
■新リーグ、さらなる議論必要
「地元とのタイアップや一定の収益を還元する仕組みなどができるのなら、ある程度セミプロ化・プロ化をしてもいい。ただ、企業チームとして運営してきた立場からすると、我々のオーナーシップがどうなるのかというのと、収益性という課題がある。今は(チーム運営の)収益はほとんどない。(リーグの仕組み上)チケット(の売り上げ)もテレビの放映権料もチームに入ってこない。ビジネスとして成り立つ運営ができるのか検証されないといけない。W杯までにその議論を関係者でやらないといけない。野球、サッカーは(国内で)一定のステータスがあるが、ラグビーは小さい子供に面白さを味わってもらうなど裾野を広げる努力もしないといけない」
「社員がやるというアマチュアリズムも大事にしたいところがある。選手にも(競技を)やめた後のメリットがある。プロだと全ての選手が一定の経済的なバックグラウンドを持てるわけじゃない」
――選手の引退後の人生に備えた支援は。
「未来プロジェクトという活動をしている。外部の人材コンサルタントに相談し、キャリア育成のために部員にいろいろな経験をしてもらう。引退後、企業人としてのパフォーマンスを発揮するための育成制度があることは、ラグビーをしている学生がどの企業に入るか考えるときにも魅力的に映る」
(聞き手は谷口誠)