W杯初戦で「憧れ」破る スノボHP・戸塚優斗(上)
ニュージーランドの空に真っ黒なスノーボードが高らかに舞い上がった。昨年9月、ハーフパイプ(HP)のワールドカップ(W杯)開幕戦。戸塚優斗(ヨネックス)は決勝2回目、勝負技の「2回転半」に、さらに1ひねりを加えた。
「3回転半」のスピンがかかったボードが、半円状のパイプに狂いなく戻ってくる。93.25まで得点を伸ばし、前回ソチ五輪2位の平野歩夢を1.00点上回っての逆転優勝。「緊張したけど、自分の滑りを見せられた」と、ド派手なW杯デビューを振り返る。
春先に差し掛かった南半球のパイプは雪の締まりがベストといえない状態。そんな"重馬場"が逆に味方した。この1、2年で会得した「(板を)踏みすぎない、浮いているイメージ」のボトムランが効き、悪路に板を取られず、技をつなげたことが勝因だ。
■鍛えた体幹「高さを武器に」
「浮く滑り」のからくりを、遠征にも帯同するヨネックスのボード開発担当、八重樫洋和が解説する。「着地してから(体を沈み込ませて)板をこぐような動作がほとんどないから、落下した力をロスなく次のジャンプにつなげられる」。言うはやすしで、並の選手なら体がすぐにぐらつくはず。板の中心にどしっと体を乗せるバランスと、その軸をぶらさない強固な体幹があってこその芸当だ。
身長169センチは高1としては標準だが、「小さいころからがたいが良くて」という分厚い胸板が目を引く。10年ほど前、浅田真央ブームに乗った母親がフィギュアスケートのレッスンに連れていったが満員。ならばと同じリンクでやっていたアイスホッケーに取り組んだのが強じんな体をはぐくんだか。このときもスケーティングはすぐにうまくなったというから、平衡感覚も天性のものらしい。
この自らの武器を生かすため、戸塚は柔らかくて反発力の強いカーボン製の軽い板を好む。八重樫いわく「じゃじゃ馬」で、ウッド製に比べ高さが出る分、落下に耐えられる体幹がないと途端に板が暴れ出す。そのじゃじゃ馬を乗りこなし、トレーニングで一回り体も大きくなった最近はさらに高反発のものを試す。飛び出しのうまさも相まって、「高さが一番の武器」と胸を張れるようになった。
昨春の全日本選手権を制し、初めて日本代表入りした戸塚は、平野に今季唯一の土をつけ、平昌五輪の穴馬に躍り出た。だが、12月の中国・張家口W杯では再び跳ね返され、銀メダリストへの思いは憧れの域を出ていない。「世界で一番うまい人。もっと成長しないと五輪に行っても勝てない」。英雄を超えるため、秘策も温め中だ。=敬称略
(西堀卓司)
〔日本経済新聞夕刊1月15日掲載〕