フィギュア宇野 攻め貫き「自分に勝つ」
平昌へ メダルへの道
取ればその後の人生が変わる。アスリートなら誰もが欲しい五輪のメダル。だが金メダルを狙える位置にいても、宇野昌磨(トヨタ自動車)の思いは少し違う。
メダルが欲しいとは言わない。「少なくとも今年が目標じゃない。何が目標か?と言われると僕も分からないけれど、もっと先に(目標は)ある。将来につながるよう、順位より自分が満足する演技がしたい」。だからこそ今季も「攻める」をテーマに、4回転ジャンプの種類を増やそうとし、アイスショーでは4回転だけのプログラムを試み、試合ごとにジャンプ構成を変えた。
がむしゃらに疾走する若武者には、まぶしさと危うさが同居する。昨年末に20歳になり、少し立ち止まった。「昨季と全く同じジャンプ構成を体に染み込ませることを一からやる」
今季出場した全試合で表彰台に上がったが、心から「いい」と言えた試合は9月の初戦だけだ。10月は左足に軽い肉離れ、11月はインフルエンザで考えていた練習ができない時期があり、新しい挑戦を担保するはずの4回転トーループなど簡単なジャンプでミスが続く。
何かがおかしい。全日本選手権を連覇した後、四大陸選手権までの約1カ月で「内容の濃い練習をしたい」と話した。
練習の虫だ。5歳の時、スケートに誘ってくれた2010年バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央さんに似ている。「ここ数年ですよ、自主的に練習するようになったのは。自分に厳しくなくて、サボる方に傾くタイプ。正直やらされている感じだった」と宇野は言うが。
テニス、バレエ、サッカー……ほかにも習い事を並行してやらされたが、スケートだけは特別だった。名古屋で、国内外のトップスケーターに自然に触れあう環境で育ち、「ここまで世界で戦えるとは思っていなかったけれど、心のどこかで無理だとも思っていなかった」。いつしか練習は好きや嫌いでなく、食事や睡眠と同じ「絶対するもの」になっていた。
そこに至った原動力は、「すっごい」がつく負けず嫌いな性格だろう。毎晩の日課であるゲームも「対戦型しか好きではないし、(勝つために)練習をする。勝ちすぎても面白くないけれどやってしまう」ほど。そして、スケートではいつも"絶対王者"羽生結弦(ANA)がいた。
今季はグランプリ(GP)ファイナル、全日本と羽生が欠場。宇野は「日本1番手」として扱われた。「特別な感情はない」と言いながら、「気づかないところで追われる立場を意識したかな。追いかける立場でいたい」と本音もポロリ。
しかし、いつまでも羽生の後ろに控えているわけにはいかない。15年世界ジュニアを最後にとれていない主要国際大会のタイトルも欲しいところだ。「今は自分に勝てていない。人に勝つ前にまずは自分」。五輪で戦うべき相手は分かっている。(原真子)