「中流層分断で価値観多様に」ロバート・キャンベル氏
1989年からの視線 インタビュー
長年にわたって日本の文学や文化を研究してきたロバート・キャンベルさんは平成に入って以降の中流層の分断が価値の多様化を生んだと指摘する。平成文化の特徴とは何か。インタビューの主な一問一答は次の通り。
――昭和と平成で文学を取り巻く状況はどう変わりましたか。
「日本には大正時代から文壇というものがあった。作家や編集者ら文学にかかわる人が集まり、交流会をしたり、文学を志す人を育てたりした。平成の初めころに中心的人物だった中上健次さんが1992年に亡くなるなどし、文壇は雲散霧消した。作家同士の関わりが希薄になった」
「平成が始まる前後、村上春樹さんや吉本ばななさんたちが活躍し始めた。海外で翻訳され、ベストセラーにもなった。村上さんはメディアにも出ず、国内のイベントにも出ない。文壇から最も遠いところにいた」
「文壇の重しがなくなり、東京にいなくても作家として活躍できるようになった。仙台市に住む伊坂幸太郎さんら様々なバックグラウンドを持つ作家が台頭した。一方で若い作家が先輩の考えに触れる機会が少なくなったのはとても残念だ」
――読者側にも変化はありましたか。
「平成の約30年間に、インターネットやスマートフォン(スマホ)が常に身近にある『デジタルネーティブ』の世代が育った。SNS(交流サイト)の普及により、読むことと書くことの『縫い目』がなくなり、文字を見る感覚も変わった」
「スマホの影響で人々は集中できる時間が短くなり、わかりやすさが重視されるようになった。近年は芥川賞より直木賞の作家の作品が売れる。エンターテインメントとして心地よい物語が求められている。文学でも映画でも展開がはやい作品が人気を集める」
――文学以外の文化で注目しているものは。
「アイドル文化はとても平成らしい。昭和の終わりごろを象徴する中森明菜さんや近藤真彦さんに対するような憧れの対象ではない。平成のアイドルには親近感があり、人々が自分のアイデンティティーを重ねている感じがする」
「非正規雇用が増えるなどして経済格差が広がり『中流層』が分断された。その結果、価値観も多様になった。ネットの普及で中高生のころから好みの情報に囲まれる『フィルターバブル』の状況で自分を形成していく人も出てきた」
――好きなものを追求する世界では何が起こるでしょうか。
「米国では2016年の大統領選から顕著だが、自分に心地よく響くニュースを流す情報源を信じ、情報の真偽を見抜けなくなる人が増えた。日本はまだそこまでの状況には至っていないが、いろいろな判断の根拠とすべき情報が共有されているのか心配だ」
――いよいよ平成が終わりを迎えます。
「日本では時間に区切りを付け、それに向かってみんなで動いていくことがとても多い。平成が終わる2019年4月末に向けて人々のエネルギーが活性化し、日本がどう変わっていくのか楽しみにしている」