プロ15年目の頂点 宮里優「もっとうまくなりたい」
2017年、男子ゴルフの宮里優作(37)は最終戦の日本シリーズJTカップを制し、プロデビュー15年目にして頂点にたどり着いた。選手会長の戴冠はツアー史上初。「遅咲き」の賞金王に話を聞いた。
――昨季は4勝。12月のアジアツアー、インドネシア・マスターズで4位に入って世界ランク50位となり、18年春のマスターズ・トーナメントの切符もつかんだ。13年に初優勝し、15年は賞金ランク2位だったが、以前と何が変わったのか。
■「昨年はパットに尽きる」
「インドネシアでは(マスターズ出場は)4位ではダメだと思った。3位以内でないと厳しいと。マスターズには小さいころから出たかった。オヤジとの約束でもあったし、何とかかなえようとして頑張った。賞金王はジャンボ(尾崎将司)さんがずっと取っていたりしていて憧れだった。一生に一回できるかどうか」
「総合的にみると、細かな技術の積み重ねで、一つ一つの精度が上がった。特によくなったのはパッティング。17年はパットに尽きると思う。集中すればするほど精度が上がり、チャンスが来たときに勝てた。ふだんから優勝争いを想定して練習し、慌てずにできたと思う。本番になったときにどうなるのか。優勝争いでどれだけ柔軟に対応し、持っているものを引き出せるのか。実戦のことを考え、練習したのがよかったかと。ゴルフではどうしてもミスの(記憶の)蓄積が体に残ったりして、ここ一番で出てしまう。優勝するたびにそういうのが取り除かれ、いいイメージが残るようになった」
――周りの選手からは「自信を持ってプレーしている」と映っている。
「『すごく落ち着いてるね』『強くなった』といわれても全く実感がなくて。とにかく、自分がやりたいことができているかしか考えていない。軽いドローを打ちたいと思ったら、その通りにセットアップして体を動かしていく。結果はどうでもいい。自分を信じきってイメージ通りに体を動かすという作業ができたかどうか、をいつも念頭に置いている」
――選手会長2年目の昨年もかなり多忙だった。
「練習量は会長になる前に比べ、1カ月分は減った。合宿もトレーニングもできない。だから、トレーナーに相談して、トレーニングはなるべくジムに行かないで、部屋で空いた時間にできるようにメニューを組んでもらった。全米オープン国内予選で1日に44ホールをプレーするなど連戦で(6月の)ツアー選手権のときは疲れがピークに。タフなコースで精神的に削られ、きつかった。10月に入ってやっと疲れが抜けた感じ。でもトレーニングができていないので、終盤戦は体力がぎりぎり、カツカツに。よくもったな、と思う。このオフも時間がないけれど、オーバーホールを考えないと」
「忙しい中でどうしたらうまくいくのか。(就任1年目の)一昨年から手探りでやってきて、ラウンド中に練習をしちゃうのが一番効果的だなと思った。練習不足だからシーズン前半戦はほぼあきらめて、練習だと。ピン位置や風とかを考え、このホールはフェードを打ってみようとか。スコアうんぬんでなく、コースで練習する感覚でプレーしていたら、イメージを出しやすくなった。僕はどちらかといえばイメージ先行型なんで。試合中は間合いを大事にして、僕のペースを百パーセント守りきった。自分のいい間合いじゃないと絶対に打たなかった。一定のリズムを保てているときは、いい集中力があった」
――5月に妹の藍プロが引退発表。8月には父の優さんが英国で倒れ、救急車で病院に担ぎ込まれるなど「宮里家」にはいろいろあった。
「妹からは16年末に(沖縄の実家で)聞いた。最初は『えっ』と声を。でもずいぶん考えて出した結果だろうし、残り試合で考え直すかもしれないと思い、『そうか。頑張ってもう1回勝って終わろうよ』と言った。本人もたぶんそのつもりだったのでは。もう少しモチベーションが上がるかと思ったけれど『本当に引退したかー』と。父の入院は心配したが、話を聞いている感じでは大丈夫かと。逆に、ずっとつきっきりで看病していた母のほうが心配だった」
■「僕には重い言葉だった」
――10月のツアーワールド・カップでは、ツアー史上初めて4日間ボギーなしで優勝した。試合中の気持ちのコントロールやオン・オフの切り替えは?
「バーディーも取るけれど、ボギーもたたくのが僕だった。03年に米ツアーのQT(クオリファイング・トーナメント=予選会)を勝ち上がってファイナルQTへ行ったとき、6日間でバーディーは全体で3位の25個。でもボギーも3位で、米国人キャディーに『BB(バーディー・ボギー)』ってあだ名をつけられた。それでは数字、スコアにならない。最近はボギーが圧倒的に減った。藤田(寛之)さんや谷口(徹)さんらうまい人は、切り替えがうまい。パッティングなんかで自信を持っているから。入らなくても、自分のせいにせず『ラインが悪かった』って。僕の場合、今のは何が悪かったのか、ライン読みなのか、ストロークなのか。それを明確にすることで気持ちを切り替えられた。ショットも同じ。スイングじゃなくて、セットアップが狂ってミスすることが多い。スイングや打ち方にこだわらなくなって、うまくいくようになった。谷口さんに『パットが悪い日はどうするのですか?』と質問したことがある。そうしたら、シンプルに『ボギーじゃなかったらエエねん』。パー5でバーディーを取れずカーッとくることがあったけれど、それを聞いて『そりゃそうだ。ボギーを打たなかったからいいよな』と。僕には重い言葉だった。年間を通して、そういう心づもりが大事」
「僕は家で子どもをお風呂に入れ、寝かしつける担当。勉強をみたり、習い事の送り迎えなどもしたりして、暇がない。朝は早いし、夜9時には子どもに本を読んで一緒に寝ている。リラックスするにはシガー(葉巻)があれば大丈夫。遠征先では札幌、博多、東京、千葉となじみのシガーバーに行く。シガーの長さで時間を決め、1、2時間ボーッと吸っている。自分のための有意義な時間。冷静に、落ち着いて考えるので。ゴルフのことでもいいアイデアが浮かぶ。試合が終わったばかりだと案外修正はできない。実はパニック状態で……。練習してもあまりいいことはない。気休め。練習するよりも、シガーを吸って、明日どうするのかと考えるための時間に充てたほうがいい。トーナメント中も朝はスタート前に30分以上、シガーを吸うのが毎日のルーティン。ピン位置(を記した紙)を見ながら『風はこっちからか?』『朝の練習場では4番アイアンをちょっと多めに練習したほうがいいか?』などとプレーのことを考え、戦略を練っている」
■今後へ「ショートゲーム磨く」
――円熟期を迎えている。今後の課題や目標は?
「課題はいっぱいありすぎる。パットはライン読みを含め、まだおぼつかない面がある。日本シリーズのように35パットしたこともある。アイアンの精度や、ドローとフェードの打ち分けとか、自分の中では課題がいっぱい残っていて、賞金王になれたのが不思議。(小平)智のほうが平均ストロークやパーオン率などデータ的にも1位が多い。僕はやり残した感があるシーズンだったのに……。でも、伸びしろがあるはず。平均パット数にこだわっていたからランク1位は自信になったけれど、1.74はまだまだ。1.6に近づけるようにしたい。とにかくうまくなりたい。うまいゴルファー、強いゴルファーになりたい」
「この世界は一寸先は闇。すぐに足をすくわれる。体力の衰えは今は感じないが、たぶん筋力は落ちているし。40代に近づき、切実な問題がだんだん迫ってくる。うまくいかない時期が必ず来るはず。そうなったときのために準備はしておかないと。ショット力が落ちてくるのはわかっている。そこを支えるのはショートゲーム。青木(功)さんらシニアを見ていても、小技は意外にさびない。そこで戦えるはず。40代後半に向けて、今からそこを磨いておかないとダメだなと感じている」
「海外メジャーは全部出場したい。ただ米PGAツアー挑戦は考えていない。周りの選手がすごすぎて、自分が見えなくなるのではと。今は欧州ツアーへ行きたいな、と思っている。PGAはコースのテーストはほぼ一緒だけれど、欧州ツアーは毎週違う国、違うコース、違う芝で戦っている。そんなコースで回って、順応していくのだから、タフだなあと。40代後半になっても、世界のあちこちへ行って戦っているタフな選手もいる。(タイの)トンチャイ・ジェイディー(48)はもう50歳近いのにシードを確保している。通算8勝もしている。すごいなあと。欧州ツアーにはスピリッツのある選手が多い。自分を鍛え、本当の強さを磨くのは欧州かなと思う」
(聞き手は吉良幸雄)