ラクス、中小企業の経理の悩み解決
伸びる会社 MIDDLE200
ラクスは大規模なIT(情報技術)投資が難しい中小企業が手軽に使える経理業務のクラウドサービスを提供している。日本経済新聞社が13日に更新した新興5市場に上場する中堅企業の成長ランキング「伸びる会社MIDDLE200」で5位にランクインした。中小が使いやすい機能を追求し、成長を目指している。(全199社の総合・業種別ランキングは「ビジュアルデータ」で)
「楽楽精算」2500社が導入
「経理の私には悩みが多い」。経理マンの手には、社員の交通費精算の書類。「定期の区間とかぶってるよ。君の最寄り駅は目黒だよね?」。女性の同僚に指摘すると、「なんで私の家、知ってるんですか?」「え、調べたの? 怖すぎなんだけど!」とフロア中の注目を集めてしまう――。
ラクスが8月に放送したクラウド型経費精算システム「楽楽精算」のテレビCMの一コマだ。ラクスの成長をけん引する楽楽精算はこんな「経理の面倒臭さ」の解決を図っている。
これまで社員が紙で処理していた交通費などの申請や承認、精算業務をすべてIT化。作業時間を4分の1に短縮できるという。ラクスの中村崇則社長(44)は「かゆいところに手が届くシステム」と表現する。顧客の要望に応え、目的に合わせて絞り込んだサービスを提供するのが特徴だ。
テレビCMも追い風に足元の利用者は伸びており、「多い時で月100社を超える」(中村社長)。システムの利用料は月3万円からで、中小企業でも気軽に利用できる。09年の販売開始以降、導入企業は11月末時点で2500社を超えた。
ラクスは2000年の設立で、15年12月に東証マザーズに上場した。楽楽精算に加え、累計で4500社が利用するメール管理システム「メールディーラー」や、帳票発行システム「楽楽明細」など中小企業向けに様々なクラウドサービスを提供している。
18年3月期の売上高は前期比22%増の60億円、純利益は14%増の8億円を見込む。楽楽精算の利用者は今後2~3年で5000社と現在の2倍の規模を目指しており、「伸びしろはまだまだ大きい」(中村社長)。
安住せず「挑戦続ける」
ラクスは今でこそ安定的に成長しているものの、これまでの事業は成功ばかりでなかった。中村社長は「打率は3割」と話す。設立当初はエンジニアを育成するITエンジニアスクールを運営していた。「昼は教材づくりに打ち込み、夜はプログラミングを書いていた」(中村社長)。その後も企業で働く社員のスケジュールやタスクを管理するグループウエアを開発したが、不発だった。
09年に楽楽精算を始めた当時は、企業の経理システムは数百万円するパッケージを導入するか、自社開発するしかなかった。クラウドを使って低価格で提供すれば、裾野が広い中小企業を取り込めると考え、成長事業に育てた。
「起業は特に意識していなかった」という中村社長は大学卒業後、1996年にNTTに入社し、主に営業畑を歩いた。当時はインターネットの草創期。メールアドレスをリスト化して一度に送ることができれば「企業が放送局になれる」と、97年にNTTの同期の友人らとメーリングリストの会社を立ち上げた。平日の仕事終わりや週末に仲間の自宅に集まり、開発に没頭した。
大学は経営学部だったため、独学でプログラミングを学んだ。事業に集中するためNTTを2年ほどで退社。00年に社名を「インフォキャスト」に変え、株式会社化した。ジャフコから出資を受けた1億円で、オフィスやサーバーを借りた。
メーリングリストの利用者は国内70万人と順調に伸びたが、このころ米国の競合企業を米ヤフーが買収した。「資金力で圧倒的に不利。負けが見えている戦いだ」(中村社長)と判断し、会社を楽天に売却。創業時の仲間たちと別れ、売却資金を元手に現在のラクスを設立した。失敗を続けながらも事業の柱を増やしている。
中村社長は上場後も社員に、挑戦する姿勢を忘れないよう説いている。現在の主力サービスに安住せず、引き続きラインアップの拡充を図る。「失敗がないということは、挑戦もしていないということ。自分自身もまだ勉強中」。そう気を引き締める。
(企業報道部 駿河翼)
[日経産業新聞 2017年12月25日付]