野球中継もっと魅力的に 立命大が日本ハムと研究
普段見ているプロ野球中継はどれほど魅力的で、ファンの創出につながっているのか――。そんな研究を、スポーツビジネスを専門とする立命館大の種子田穣教授が日本ハムと共同で行った。米大リーグや韓国プロ野球と比較しながら視聴者をひき付ける中継を体系的に捉え、今後に生かそうというのが狙いだ。
■アップ映像や臨場感がカギ
研究では日本ハムに試合映像(2014、16年)を提供してもらい、大リーグ、韓国プロ野球、高校野球と比較。一定時間のカメラのアングルの違いなどを分析した。1秒ごとにどの位置からの映像かを調べ、その印象についても聞き取り調査をした。
14年の日本ハムの中継では中堅から本塁方向への映像が全体の27%を占めた。これは大リーグの7%、韓国の14%と比べても高い数値。種子田教授は「日本の野球は一騎打ちの要素が高く、投手と打者の映像が中心。パターンが決まっていて単調に見えてしまっている」と語る。10秒以上も同じ角度からの映像が流れることもあり、「臨場感が足りない印象」を抱いたという。
一方、16年では19%に減少していた。カメラを6台から12台に増やしたことが要因で、カット数も132から250に。三塁内野席の上段や右翼線上のスタンドにカメラを新たに設置したことで、より多くの画面に切り替えられるようになった。
種子田教授によると、中継で大事なのは「いかにカット数が多いかであり、プレー以外の映像をどれだけ見せられるか」。たとえば、レアードや中田翔が本塁打を放って盛り上がる観客らの表情がアップで映れば視聴者に臨場感が伝わる。これが「球場に行きたい」と思わせるきっかけになる。16年の日本ハムの中継もまだ改革の途上といえ、観客や選手のアップの映像を増やすなど改善の余地はもっとあると指摘する。
日本の中継は球場内の看板広告を意識するあまり、アップ映像が少なくなってしまう傾向にある。これに対して大リーグは「アップ映像も多く、スタジアム広告が少なくて見やすい」。ベースにカメラが埋められていたり、ブルペンやベンチもよく映る。17台のカメラを駆使して映像の固定化を極力避け、視聴者を飽きさせない工夫がちりばめられている。
韓国プロ野球も大リーグをモデルにしてカメラを17台使用。特徴的なのは女性ファンを多く映していることだ。スタンドを歩きながら撮影するカメラマンもいて、男性や家族を巻き込む「若い女性」や「子ども」を取り込もうという意図が明確だ。種子田教授も「どこをターゲットにするかは非常に大事。大いに参考になる」。ドラマ性が重視される高校野球でもアルプス席の様子や選手、応援団の表情を映したカットが多い。
野球ファンだけででなく、野球に興味がない人にも行った聞き取り調査では「昔の日本のプロ野球中継は退屈という声は多かった」という。実は日本ハムも同じ認識を持っていて、中継が市場拡大の一翼を担っているという意識が薄いと感じていた。「テレビ局側と話していても、『中継は1局のみだから、映像の良しあしで視聴率は変化しない』ということだった。顧客本位ではない現状は何とかしないといけない」と関係者。今回の共同研究で映像を提供したのも、球団が制作する中継をより魅力的なものにしたいという思いが込められている。
■「中継が裾野の拡大に寄与」
日本ハムの城野照久・球団映像ディレクターは「15年以降、意図的に取り組んでいることが可視化されたことは大きな収穫。改善部分も明確になった。中継はディレクターの感覚的な部分や口承で受け継がれる職人のような世界だが、一つのスタイルとして成文化できるように積極的に活用したい」と語る。今後は、打球の弾道やボールの変化などデータのグラフィック化も検討している。「ゲームに慣れ親しんだ子どもや野球中継になじみがなかった層にも視覚的に訴えやすいと思っている」
種子田教授は「中継の考察はこれまで注目されてこなかった領域だが、ファンあっての野球という側面を考えれば無視できない。今回の研究を通して、各球団には中継が裾野の拡大につながるという認識を持ってもらい、プロ野球のよさを伝えてほしい」と願う。視聴率がコンテンツとしての評価のもの差しになっているが、今や「いつでも」「どこでも」スポーツ中継をインターネットで見られる時代。そうした環境の変化にも対応しながら野球中継のあり方を考えることが球団にも求められている。
(渡辺岳史)