GPファイナルに映る 4回転ジャンプ時代の影
フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズのポイント上位6選手で競われるGPファイナルが7日、名古屋市の日本ガイシホールで始まる。2018年2月に開幕する平昌冬季五輪の前哨戦とされるが、昨季世界選手権の上位6選手のうち4選手が出場できない。昨季から4回転ジャンプを一つの大会で5~7回挑む選手が珍しくなく、大技を成功させようとするあまり調子を崩した選手が続出している。
GPシリーズは6戦あり、基本は各選手が2大会ずつ出場する。今季のGPファイナル出場者で、4回転ジャンプをショートプログラム(SP)、フリーで合計6回以上挑戦して転倒もしなければプログラムの流れも大きく壊さずに滑り終えたのはロシア大会のネーサン・チェン(米国、昨季世界選手権6位)とカナダ大会の宇野昌磨(トヨタ自動車、同2位)だけだった。
GPファイナル4連覇中だった昨季世界王者の羽生結弦(ANA)は4回転ルッツを練習中に転倒して負傷してNHK杯を欠場。足が万全な状態でないといわれる金博洋(中国)は中国大会2位、米国大会4位でGPファイナル出場を決めた。だがこの2大会でSP、フリーのどちらか一方だけでも首位に立つことはなく、1日、欠場を発表した。チェンも2戦目の米国大会は靴のアクシデントもあってフリーは散々、宇野もフランス大会はインフルエンザの影響でふるわなかった。
2大会ともSP、フリーをとりあえず大過なく滑り終えた選手となると、ベテランのセルゲイ・ボロノフ(30、ロシア)とアダム・リッポン(28、米国)だけ。ボロノフは4回転はSP、フリー合わせて計3本、リッポンは1回(2大会とも回転不足)だった。「4回転ジャンプを次々跳べる若い選手はすごいよ。昔の僕だったらパニックになっていたと思う。でも、年齢を重ねて悟ったんだ。4回転を武器にするのが若い選手の戦術なら、僕は経験とスピン、技の素晴らしさで勝負する」とリッポン。
年齢的にも4回転に多く挑戦するのは体への負担が大きすぎる。確実にできる武器を磨き、手堅く得点を稼ぐしかない。五輪シーズンはそれぞれの選手がギアを上げて仕上げてくるが、4回転ジャンプの練習に時間をかけすぎた結果、故障したり調子を崩したりする選手が多く出て、昨季は世界選手権に出場していなかったボロノフとリッポンがそれぞれGP大会ランキングで4、5位に浮上した格好だ。
■トップ選手の標準は計5~6回
各選手、とりわけまだ表現力が豊かでない若手が4回転ジャンプに挑もうとはやるのも無理はない。昨季までの傾向を見る限り、平昌五輪で表彰台に立とうとすると、4回転ジャンプはSP、フリーを合わせて6回、少なくとも5回は成功させる必要がある。金メダルとなれば7~8回も狙いたい。そのためオフシーズンからジャンプに力を入れてきたのだろうが、4回転ジャンプは着氷時の体への負担も大きい。4回転を計5~6回跳ぶのがトップ選手のスタンダードになって3シーズン目、蓄積疲労もあるかもしれない。GPシリーズ最終戦の米国大会では2人も大会途中で棄権者が出た。
シーズン前半戦にあたるGPシリーズは審判の傾向、自分のプログラムの滑りやすさ、観客の反応などを確認するのが主な目的だが、ここまで故障者が出ると五輪の前哨戦としてどこまで参考になるのだろうか。また、前半戦の状況を見て、戦術を再考する選手もいるだろう。羽生、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)と世界王者2人を教えるブライアン・オーサー・コーチは「GPファイナルは出場できないけれど、アップダウンがあるのがスポーツ。だから面白い。これから戦術を立て直す。スマートにならないとね」と話す。
それにしても、今季GPシリーズの男子はミスが多く、全体的にプログラムにまとまりがない印象を受ける。優勝得点は最も低かったが、ボロノフとリッポンが出場したNHK杯は最終グループにミスが少なく、純粋に勝負として興味深かった。GPファイナルも平昌五輪も選手がけがをすることなく全うし、4回転ジャンプのスリルだけでなく、演技そのものを楽しめる大会であってほしい。
(原真子)