学校安全、主役は児童 けがの分析・災害シミュレーション…
学校内外の安全対策を子供自身に考えさせる動きが広がっている。事故や犯罪、災害など子供を取り巻くリスクは様々。身を守るには児童が自分で考え、行動することが重要との考えが背景にある。校内事故のデータを分析したり、災害時に取るべき行動をシミュレーションしたり。独自に取り組んでいる学校現場を取材した。
10月末、東京都豊島区立朋有小学校の理科室に、5~6年生の保健委員たちが集まった。目の前に置かれているのは、10月に校内で発生したけがを養護教諭がまとめたデータだ。
「気づいたこと、みんなに呼び掛けたいことを発表してください」。委員長の平野敬大君(11)が呼び掛けると「校庭でのけがが多い」「雨の日は滑りやすいので、走らない方がいい」などと次々に意見が出た。
委員会は話し合いを踏まえて壁新聞「セーフニュース」を月1回発行。けがのデータを学年別や時間帯別などで紹介して注意を呼び掛けている。平野君は「難しいけれど、みんなに気を付けてほしいことを分かりやすく書くようにしている」と話す。
朋有小は2012年、学校の安全に関する国際的な認証「インターナショナルセーフスクール(ISS)」を取得。安全教育や地域との連携に力を入れている。特徴は児童が自ら考え、発信することだ。
例えば保健室で手当てを受けた場合、児童はけがをした時間帯や場所だけでなく、どうしたらけがを防げたかを考えて用紙に記入する。内容を担任に報告し、再発防止につなげる。毎週月曜の全校朝会では、各学級が交代で安全の取り組みや成果を発表する。西村浩校長は「一人一人が安全をひとごとでなく『自分事』と捉えている」と話す。
効果ははっきり表れている。ISSの認証を受ける前の11年度、校内でのけがは年間1800件以上あったが、年々減少し、16年度は511件と3割以下になった。救急車を呼ぶような大きなけがはここ数年ないという。
東京都日野市立平山小学校は、児童が災害時に取るべき行動などを考える教科「生きぬく科」を設けている。学年が上がるにつれ、判断する内容が高度になる。例えば低学年は身近な場所での身の守り方を工夫。中学年は台風や大雨の際の情報を集めて危険を予測し、高学年になると周囲の人を助けたり災害に強い街づくりを考えたりする。
11月中旬に開かれた「学習発表会」では、避難所で必要な配慮や応急手当ての仕方など、グループに分かれて研究した内容を報告しあった。息子の発表を見に来た女性(40)は「地震が起きたらどこで落ち合うかなど家庭でも話し合うようになった」と話す。
生きぬく科には「総合的な学習」に加え、理科や生活科など安全にかかわる教科の一部を充てている。折茂慎一郎主幹教諭は「熊本の地震で避難所を経験した教師にスカイプで話を聞く授業では、児童から『自分たちに何ができるか』といった質問が出た。食料を配ったり話しかけたり、他の人を助けられることにも気づいた」と手ごたえを感じていた。
地域の実情に応じた安全対策も重要だ。竜巻被害が連続発生した栃木県鹿沼市では、宇都宮地方気象台が開発した竜巻防災教育プログラムを市内の小中学校で導入している。授業で竜巻の特徴などを学んだ後、避難訓練を実施。自分の取った行動が適切だったかどうかを振り返る。
避難訓練は時間や場所を変え、抜き打ちでも実施する。「1回目はうまくできなくても、子供同士で避難に適した場所を教えあうなど、徐々に協力して対応できるようになっている」(同市教育委員会)という。
学校でのけが・病気、減少傾向 対策の継続必要
学校の安全対策は主に「生活(日常のけが予防や防犯)」「交通」「災害」の3分野がある。独立行政法人日本スポーツ振興センターによると、学校でのけがや病気に対して支払われる災害共済給付の件数は減少傾向にあり、2016年度は11年度比6%減の約105万件。同センターは「安全意識の高まりが背景にある」とみる。
09年施行の学校保健安全法が、各学校に対し安全計画や危機管理マニュアルを策定することを義務付けたことも影響しているとみられる。
ただ、先進的な取り組みがある一方、安全計画を策定していない学校もある。担当者が転勤して計画が更新されず、放置されているケースも。渡辺正樹東京学芸大教授(安全教育学)は「全体を底上げするには、すべての学校に『安全主任』を置き、継続的な対策を講じるべきだ」と提案している。(ライター 高橋恵里)