膨張メルカリ、企業に触手 動画通販にネスレなど
個人向けフリマアプリで膨張してきたメルカリ(東京・港)が機能の一部を企業に開放する。30日には動画を使ったコーナーにネスレ日本など11社が参加すると発表。個人間取引のプラットフォームの対象を企業に広げて次の成長の種を探る。ただ企業の色が前に出すぎれば、肝心の個人の支持を失いかねない。リスクを伴う、もろ刃の成長戦略はどう転ぶか。
門戸を開くのは個人がライブ動画で商品などを紹介しながら販売するコーナー。12月1日からネスレ日本のほか宇治茶の老舗、伊藤久右衛門(京都府宇治市)やアパレル主力のネット通販会社などが参加する。ネスレはコーヒーメーカーを販売する予定で「商品の良さをじっくり説明できるライブ動画の機能に期待している」という。
アプリのダウンロード数が6千万件に上り、個人間取引のプラットフォーマー(基盤提供者)の地位を築いたメルカリには、以前から企業からのラブコールが相次いでいた。同社幹部も「法人への展開はずっと前から構想していた」と話す。なかなか踏み切れなかったのは、個人のマーケットに企業が入り込むことへの影響を考えたためだ。
今回開放したのも主力のフリマではなく派生サービスともいえる動画コーナーのみ。個人がハンドメードの雑貨などをアピールしていることもあって、参加する企業にもテレビ通販のような本格的な動画ではなく、調理中の様子など「手作り感」のある動画の配信を求める念の入れようだ。
慎重姿勢の背景にはかつてのヤフーの例がある。ヤフーは1999年に始めたネット競売サービスで個人間取引の市場を急拡大させたが、「ストア」マークの企業の出品が増えるのと歩調を合わせるように成長が鈍化。2010年前後には取扱高がマイナスになる時期もあった。
メルカリの幹部は「単にモノとカネを交換するネット通販と違い、個人間のコミュニケーションが生まれることが魅力のひとつ」と自社の強みを分析する。実際、商品を出品する際に、使ってきた思いを書き込む人は少なくない。価格の提示が原則だが「値下げ交渉可」の場合も多い。企業が目立つようになると、こうした人間くさい雰囲気が崩れる恐れがある。
しかし18年前半とも言われる株式上場を控え、メルカリは投資家とも向き合わなければならなくなった。成長のシナリオをどう打ち出すかがこれまで以上に重要だ。個人の市場に企業をうまく取り込めれば一層の成長を示す格好の材料になる。
メルカリは30日のプレスリリースで、企業に開放したコーナーを「特区」と記載した。その表現にメルカリの悩みがにじむ。サービスの世界観と投資家が求める成長をどうバランスさせるか。移り気な個人ユーザーとの難しい駆け引きが始まる。(篤田聡志)