スタートアップの祭典「テッククランチ」渋谷で開幕
米メディアのテッククランチが主催するスタートアップの大型イベント「テッククランチ東京」が16日、渋谷ヒカリエ(東京・渋谷)で開幕した。7回目の今年は2日間にわたり、過去最多の来場者2200人超を見込む。渋谷はかつてネットバブルの崩壊で2000年代に停滞も経験したが、近年は「起業の街」としてすっかり息を吹き返してきた。米シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル(VC)が起業家の育成施設を新設するなど活発な動きが続く。
国内外の起業家が集結
イベントの目玉は、創業間もないスタートアップが投資家らの前で事業モデルの優劣を競い合うピッチコンテスト「スタートアップバトル」だ。期間中、100社超の選考を勝ち抜いたファイナリスト20社が登壇。来場者もスタートアップに投票できる。最終日に決定する優勝者には賞金100万円が贈られる。バトル初日、渋谷を拠点とするスタートアップが相次ぎ登場した。
iPadを活用した無人受付システム「レセプショニスト」を披露したのは、ディライテッド(東京・渋谷)。内線電話でなく来訪者がiPadを操作し、社員を呼び出す。自身も受付の仕事をしていた橋本真里子社長は「取次時間を5分の1に短縮できる」とアピールした。来客に作業を中断され、生産性が低下することを嫌うエンジニアの多い企業にも定評があるという。
7月に創業したばかりのペイミー(東京・渋谷、後藤道輝社長)は給与前払いサービスを手掛けている。従業員のスマートフォン(スマホ)に前払い可能な金額が表示され、当日か翌日に銀行口座に振り込まれる。すでに飲食やコンビニ業界など30社超で導入が決まっているという。
登壇する若手企業のほかにも、会場ではスタートアップ40社超が出展する。多くの「先輩起業家」も登壇し、それぞれの経験を共有する。米フェイスブックの初代最高技術責任者(CTO)で、質問サイトの米クォーラのアダム・ディアンジェロ最高経営責任者(CEO)ら業界の重鎮も渋谷に駆けつける。
「起業の街」羽ばたくか
活気を取り戻す渋谷の新たな象徴が、テッククランチが開かれたヒカリエだ。東京急行電鉄が12年に開業したこの複合ビルで開催されるのは3回目。8階にはコワーキングスペース「MOV」があり、朝から起業家やノマドワーカーらがおしゃれな空間でコーヒーを飲みながら一心不乱にパソコンに向き合う姿がみられる。一方で、駅西側の道玄坂や桜丘町の古くて家賃の安い物件にも起業したての若手が集まり、新陳代謝も起きている。
同じ東急系で独立色が強い東急不動産も動く。米シリコンバレーを本拠とする有力VCのプラグ・アンド・プレイは11月から日本初のインキュベーション施設を東急不の物件施設内でオープンした。プラグ・アンド・プレイ日本法人のフィリップ・誠慈・ヴィンセント社長は「渋谷はオープンで誰でも入ってこれるのが特長。シリコンバレーに似た雰囲気があり、日本の第1号をするなら渋谷と決めていた」と語る。
行政も積極的だ。「国際文化観光都市」を標榜し、博報堂出身の長谷部健区長が音頭をとる。イノベーションには多様性が欠かせないとの思いから、「ダイブ・ダイバーシティ・サミット・シブヤ(DDSS)」が13~15日に区内で開かれ、起業家らが集った。そして国際的なネットワークをもつテッククランチのイベントにつながり、今週の渋谷は常に起業家が集まる仕掛けが続いた。
事業開発の中にデザインの考え方を反映し顧客体験(UX)重視の潮流が日本にも押し寄せているなか、デザイナーやクリエーターが集まる渋谷の優位性もある。音楽などの文化も根付いたのも同様。10月末に区内で本社の引っ越しをしたSKIYAKIの宮瀬卓也社長は「人材集めの面を考えても渋谷が最適」という。
渋谷には世代や業種による序列もない。ある意味無秩序な雰囲気はドイツの首都ベルリンにも似る。とはいえ、アジアをみれば中国・深セン、シンガポールなど起業家が集まる拠点は各地にある。7回目を迎えたテッククランチ東京をきっかけに渋谷が本当に羽ばたくきっかけにできるか試される。
(企業報道部 駿河翼、加藤貴行)
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