イングランドの守備崩せず ブラジル攻撃陣に課題
サッカージャーナリスト 沢田啓明
2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会の南米予選を首位で突破したブラジル代表が、11月に欧州へ遠征した。10日にフランス・リールで日本代表と、14日にはロンドンでイングランド代表と強化試合を行った。
ブラジルの場合、南米予選を通じて、各ポジションの1番手(レギュラー)から3番手くらいまでの"序列"がほぼ固まっている。遠征前、チチ監督は「新しい戦術、新しい選手を試したい」と語り、日本戦では控え選手6人を先発させ、さらに後半にも、控え選手5人を投入した。
■「日本は対人守備に淡泊、攻撃も迫力ない」
近年、日本との試合は、試合の序盤にエースのネイマール(パリ・サンジェルマン)の活躍などで連続得点してブラジルが勝負を決め、後半は大幅にメンバーを代えてペースを落とすことが多い。この試合も、ブラジルがネイマールのPK、マルセロ(レアル・マドリード)の豪快なミドルシュートで先行し、さらに右からのクロスをCFガブリエルジェズス(マンチェスター・シティー)が中央で合わせ、前半だけで3得点を挙げた(もしネイマールがもう1本のPKを失敗していなければ、4-0となっていたところだった)。後半、日本も左CKからCB槙野智章(浦和)のヘディングシュートで1点を返したが、両国の力の差は明らかだった。
ブラジルの収穫は、テストした控え選手のうち、右SBの3番手ダニーロ(マンチェスター・シティー)がこの試合のベストゴールだった3点目をアシストするなど効果的な攻撃参加を見せたこと、ボランチの2番手であるジュリアーノ(フェネルバフチェ)が攻守に奮闘したことだろう。ただし、失点した場面で槙野に競り負けたCBの3番手ジェメルソン(モナコ)はかなり評価を下げたのではないか。
日本代表について知人のブラジル人記者に聞くと、「序盤は、必要以上にブラジルを怖がっている印象を受けた。全般的に対人守備が淡泊で、またせっかくボールを奪ってもパスミスが多く、攻撃に迫力がない。今のままでは、来年のW杯で1次リーグを突破するのは困難だろう」と手厳しかった。
■メディアの関心はネイマールの涙
印象に残った日本選手を尋ねると、かなり考えた末、「ネイマールをある程度抑えた右SB酒井宏樹(マルセイユ)、3点目につながるクリアミスをしたが鋭い出足でブラジルのパスを何度かインターセプトしたMF井手口陽介(G大阪)、ネイマールのPKを止めたGK川島永嗣(メッス)、得点を挙げたCB槙野」の4人の名前を挙げた。
試合翌日のブラジル各紙は、試合そのものより試合後の記者会見の模様を大きく取り上げた。ネイマールが「フランスのメディアは、僕がクラブで監督、チームメイトと仲が悪いなどと事実ではないことばかり報道する。いい加減にやめてほしい」と抗議したところ、チチ監督が「彼の人間性と心の大きさはこの私が保証する」と強く擁護し、横で聞いていたネイマールが感極まって涙を流したのである。エースの言動が注目を集めるのは当然とはいえ、日本代表への評価や注目度があまり高くないことをはっきり知らされた。
■激しい守備に好機つくれずスコアレス
続くロンドンのウェンブリー・スタジアムで行なわれたイングランド戦。チチ監督は現時点のベストメンバーを送り出した。
日本戦と同様、テクニックと創造性で上回るブラジルが主導権を握ったが、イングランドが日本と違ったのは、人数をかけて低い位置で守備ブロックを作り、極めて執拗にブラジル選手をマークしたことだ。
たとえば、ネイマールが左サイドからスピードに乗ってドリブルで中へ切れ込んでくる場面。日本選手は置き去りにされることが多かったが、イングランド選手は激しく体を寄せて必死に食い下がる。それでも引きはがされると、すぐに別の選手が追いすがり、何とかボールをかき出す。狭い地域に守備の選手が密集しているので、ブラジルにとってもスペースが限られており、なかなか突破できない。やはり、レベルの高い欧州予選をグループ首位で勝ち抜いただけのことはある。
結局、ブラジルの決定機は、後半、ボランチのフェルナンジーニョ(マンチェスター・シティー)が強引なドリブル突破から放ったミドルシュートがゴールポストをかすめた一度だけ。ただし、イングランドも決定機を全く作れず、試合はスコアレスドローに終わった。
南米予選でも、対戦相手から激しいファウルやタックルを受けたものの、ここまで攻撃陣が封じられたことはなかった。ブラジルにとって、決して満足できる試合内容ではなかった。
世界の強豪国は、この試合におけるイングランドの守備のやり方を参考にして、今後、ブラジルに立ち向かってくるはずだ。ブラジルは、来年のW杯までにその対処法を見出さなければならない。
日本戦で何人かの控え選手が活躍し、自らの"序列"を引き上げた。イングランド戦では、最大の強みであるはずの攻撃面で課題を発見した。この2点が、今回の欧州遠征における収穫と考えていいだろう。