企業価値、22社が100億円以上 NEXTユニコーン調査
未上場で成長を続けるスタートアップ企業の存在感が増している。日本経済新聞社が実施した「NEXTユニコーン調査」によると国内22社が企業価値(推計)で100億円を超えた。人工知能(AI)やネット関連が上位にきた。独自技術に着目する大手企業も有力スタートアップ企業の取り込みに動く。新興企業の台頭は産業構造の変化に対応し、日本経済を活性化する役割を果たしている。
推計企業価値 (億円) | 直近の増資時期 | |
プリファード・ネットワークス (深層学習の産業応用) | 2326 | 2017年 8月 |
メルカリ (フリマアプリ運営) | 1479 | 16年 3月 |
Sansan (クラウド型名刺管理) | 505 | 17年 7月 |
エリーパワー (リチウムイオン電池) | 404 | 12年 5月 |
フリー (中小企業クラウド会計) | 394 | 16年 12月 |
ビズリーチ (転職サイト運営) | 338 | 16年 6月 |
TBM (石灰石で新素材開発) | 292 | 17年 11月 |
FiNC (健康サービス) | 225 | 17年 8月 |
ラクスル (ネット印刷、物流) | 219 | 16年 8月 |
ボナック (核酸医薬品開発) | 217 | 17年 9月 |
ビットフライヤー (仮想通貨取引所の運営) | 213 | 17年 2月 |
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ (全自動衣類折り畳み機) | 174 | 17年 5月 |
ソラコム (IoT通信サービス) | 173 | 16年 6月 |
C Channel (女性向け動画配信) | 163 | 16年 12月 |
GLM (電気自動車の開発) | 151 | 16年 8月 |
グライダーアソシエイツ (キュレーションサイト) | 149 | 15年 7月 |
お金のデザイン (スマホで投資運用) | 132 | 17年 10月 |
フロムスクラッチ (データ管理サービス) | 127 | 17年 5月 |
ペジーコンピューティング (省エネスパコンの開発) | 120 | 15年 7月 |
Liquid (生体認証エンジン開発) | 105 | 17年 3月 |
スターフェスティバル (フードデリバリー) | 101 | 17年 7月 |
デリー (レシピ動画サービス) | 100 | 17年 4月 |
マイクロ波化学 (化学化合物の効率量産) | 98 | 17年 9月 |
リノべる (リノベーション) | 90 | 17年 7月 |
ランサーズ (クラウドソーシング) | 84 | 14年 12月 |
JTOWER (通信設備シェアリング) | 74 | 16年 5月 |
ワンタップバイ (証券業) | 71 | 17年 2月 |
ウェルスナビ (資産運用サービス) | 66 | 16年 10月 |
調査は日本ベンチャーキャピタル協会の協力を得て実施した。創業おおむね20年以内で特徴的な技術や事業モデルを持つ108社から回答を得た。各社やベンチャーキャピタルへの取材を基に企業価値を推計した。
企業価値10億ドル(約1120億円)以上の未上場企業が「ユニコーン」とされ、その予備軍の有力スタートアップを含めて「NEXTユニコーン」とした。
企業価値首位のプリファード・ネットワークス(東京・千代田)はAIの一種である深層学習で制御技術を開発する。西川徹社長は「深層学習を導入することで製造業に変革の波を起こしたい」と期待を寄せる。8月にはトヨタ自動車が約105億円を出資した。両社は認証や車の情報を解析する技術で提携する。
2位のメルカリ(東京・港)はスマートフォン(スマホ)で操作しやすいフリマアプリの開発で急成長。フェイスブックの元副社長を迎え入れ海外事業を強化している。
NEXTユニコーンの上位企業にはAIを積極活用する企業が目立つ。5位のフリー(東京・品川)はクラウド会計処理をAIで効率化する。
クラウド型名刺管理のSansan(東京・渋谷)は積極的なシステム投資や広告宣伝で顧客層の拡大に乗り出した。Sansanは投資が先行するが、売上高の伸びを評価し、11月に入り米ゴールドマン・サックスが出資を決めた。当面の利益よりも長期の成長を重視する米ネットビジネス流の事業モデルが評価され、投資資金を引き寄せている。
調査会社ジャパンベンチャーリサーチ(東京・渋谷)が未上場のスタートアップ約千社を対象に集計した2016年の資金調達額は前年比2割増の約2100億円と過去最高を記録した。
スタートアップの出口戦略も多様化し始めている。
今回の調査では対象企業の83%が上場を考えていると答えた。新卒採用や大手企業から優秀な人材をスカウトしやすくなるためだが、約2割のスタートアップがM&A(合併・買収)で大企業の傘下に入る道も考えると回答した。
あらゆるモノがネットにつながる「IoT」関連サービスのソラコム(東京・世田谷)はKDDIに買収される道を選んだ。「次世代規格への参加やグローバル展開には大手との関係を深めることは不可欠」と玉川憲社長はその狙いを語る。
米国ではグーグルやテスラなどの新興企業が登場。ベンチャーキャピタルや個人投資家(エンジェル)がマネーの面から成長を支える循環が確立しており、ユニコーン企業が続々生まれる土壌となっている。
日本はスタートアップに投資する資金の規模が米国の2~3%。起業への理解が広がらず、大企業から流入する人材も少なくユニコーンが生まれにくいとされてきた。だが、産業構造の大転換期を迎え、トヨタのような大企業も独創的な次世代技術を求めてスタートアップとの協業や出資に乗り出している。日本でもスタートアップを軸とした産業転換が進む兆しが出ている。
推定企業価値は登記簿などの公開情報をベースに各社やVCへの取材も踏まえて日本経済新聞社が推計した。直近の第三者割当増資における株式の発行価格にストックオプション(新株予約権)などの潜在株式を含めた発行株式の総数を掛けて算出している。その後の業績や市場環境の変化による企業価値の変動は考慮していない。
M&A(合併・買収)で大企業の子会社になっても独立した企業として存在している場合は調査対象に含めた。
協力VC一覧 アーキタイプベンチャーズ、アドウェイズ、イーストベンチャーズ、ウエルインベストメント、環境エネルギー投資、グローバル・ブレイン、グロービス・キャピタル・パートナーズ、コロプラネクスト、産業革新機構、ジャフコ、スパークス・アセット・マネジメント、大和企業投資、東京大学エッジキャピタル、ドーガン・ベータ、ドレイパーネクサスベンチャーズ、フェムトパートナーズ、パーソルイノベーションファンド、ビヨンドネクストベンチャーズ、プライマルキャピタル、フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、富士通、みずほキャピタル、モバイル・インターネットキャピタル、新生企業投資、ABCドリームベンチャーズ、Bダッシュベンチャーズ、DBJキャピタル、DCMベンチャーズ、TELベンチャーキャピタル、TNPオンザロード、QBキャピタル、500スタートアップス