ハリルJ、恐れずに戦え 欧州遠征2連戦
サッカージャーナリスト 大住良之
「恐怖心を抱いてはいけない」
ブラジル、ベルギーと対戦するサッカー日本代表メンバーを発表する席上、バヒド・ハリルホジッチ監督は何度もそう繰り返した。11月に欧州を舞台に行われる2試合は、まさにそこが重要なポイントだ。
■本田と香川、岡崎の3人外す
11月10日にフランスのリールでブラジル代表(キックオフ午後1時=日本時間午後9時)と、4日後の14日にはベルギーのブルージュでベルギー代表(キックオフ午後8時45分=日本時間15日午前4時45分)と対戦する日本代表。ハリルホジッチ監督は、本田圭佑(パチューカ)、香川真司(ドルトムント)、そして岡崎慎司(レスター)という過去7年間日本代表の攻撃の中心となってきて、世界的にも名を知られている3人をそっくり外し、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で決勝に進出した浦和レッズから5人もの選手を選んだ。
本田、香川、岡崎の3人がそっくり外されたことには私も驚いた。本田は移籍したメキシコで活躍を始めており、岡崎はプレミアリーグで3得点、香川は所属のドルトムントで苦しんではいるものの、3人の経験と実績は相手が強ければ強いほど意味をもってくるからだ。
代表試合数と得点数は、岡崎が111試合、50得点、本田が91試合、36得点、香川が89試合、29得点。3人合わせて291試合、115得点。今回選ばれた25人の総出場数と総得点数(679試合、43得点)と比較すると、いかにこの3人がとくに攻撃面で日本代表を背負ってきたかがわかる。
しかしハリルホジッチ監督には、ワールドカップでやりたいサッカーがある。いや、「このサッカーができなければワールドカップで勝つことはできない」と信じるサッカーがある。それは、8月31日のオーストラリア戦で見せたサッカーだ。
FWを含めて全員での献身的な守備。個々の戦い(デュエル)での勝利。そしてボールを奪ったら時間を無駄にせずに前に運び、シュートまでもっていく攻撃だ。
本田、香川、岡崎の3人、なかでも本田と香川は、このサッカーへの適応に困難を感じている。これまでやってきたボールを支配して攻めるというスタイルから、現時点では抜けきれていない。それよりも、そうしたスタイルに適した選手を試してみたいというのが、今回のメンバーに表れたに違いない。
「本田も香川も岡崎もワールドカップに必要ない」というのではない。ブラジルやベルギーのクラスを相手にした試合では、彼らのように経験豊富な選手がいれば頼ってしまう。彼らがいない状態で、今回選んだ選手たちがどこまで責任を負い、相手の名声に立ち向かえるかを見たいということだろう。
今回浦和の選手が5人も選ばれたのは第2の驚きだが、そこにも「ワールドカップでやりたいサッカー」が関係している。
■ACLで結果、浦和から興梠ら
8月にミハイロ・ペトロビッチ監督から堀孝史監督に交代した後も、浦和は国内大会では苦しんでいる。YBCルヴァンカップと天皇杯はあっさりと敗退、Jリーグでもなかなか白星が続かない。
しかしACLでは、準々決勝で川崎に大逆転勝利を収めると、準決勝は上海上港(中国)にアウェーで1-1、ホームで1-0としぶとい戦いを見せた。なかでもホームでの第2戦は、全員がハードワークを見せてブラジル代表級が並んだ相手攻撃陣を封じ込め、ボールを奪うと効果的な速攻を繰り出して相手を上回るチャンスをつくった。その試合ぶりは、まさにオーストラリア戦の日本代表を思い起こさせるものだった。
その試合で活躍したのが、FW興梠慎三であり、MF長沢和輝だった。ともに攻守両面でハードワークしたことが高く評価され、興梠は2年ぶり、長沢は初の代表招集となった。さらにGK西川周作も8カ月ぶりの代表招集、10月の試合にも招集されていたDF槙野智章(上海上港戦では左サイドバックとして相手エースのフッキを完封した)、MF遠藤航(浦和では右サイドバックとしてプレー)と合わせ、5人の招集となったのだ。
浦和は11月18日(土)にACLの決勝第1戦、サウジアラビアのアルヒラル戦(アウェー)がある。14日のベルギー戦から中3日となるため、今回は浦和の選手の選出が見送られるのではないかと私は思っていた。しかし開けてみると、なんと5人もが選出された。
「もちろん、浦和とは話し合った。浦和の優勝は私も強く望んでいる」と語るハリルホジッチ監督だが、もし浦和がACLで優勝すると12月の東アジアE-1選手権(男子は12月9~16日)には招集できなくなる。アラブ首長国連邦(UAE)で開催される国際サッカー連盟(FIFA)クラブワールドカップの初戦が12月9日だからだ。そのためどうしても11月に興梠と長沢を呼びたかったのだ。
ブラジルは現在FIFAランキング2位。ベルギーは5位である。しかしハリルホジッチ監督は「世界の1、2位だと思う」と語る。ネイマール、ガブリエル・ジェスス、コウチーニョを攻撃陣に並べるブラジル。ベルギーも、ルカク、ベンテケ、アザール、デブルイネといった強烈な攻撃陣をもっている。
■前線からプレス、奪ったら素早く前へ
そうしたチームに対し、前線からプレスをかけ、個々が激しく戦い、奪ったら素早く前線に出して攻撃を仕掛けることができるか――。ハリルホジッチ監督は、あくまでそのサッカーにこだわっている。今回選ばれた25人は、そうしたサッカーをするための候補といってよい。
だがどういうサッカーをするか以上に大事なことがある。ハリルホジッチ監督が繰り返した「恐れない」ことだ。「相手をリスペクトしすぎない」といってもいい。
ちょうど4年前の11月、日本代表はやはり欧州に遠征し、オランダと2-2で引き分け、ベルギーには3-2の勝利をつかんだ。
だが両試合とも、立ち上がりは嵐のように攻められ、あっという間に失点した。サッカーができるようになったのは、リードした相手が緩んでからだった。そこにつけ込んで得点を挙げ、1勝1分けの成績を残したわけだが、あれがワールドカップの本番であれば、おそらくあと2、3点取られて完敗という内容だった。
原因は、相手の名前を恐れたこと、そして相手の攻撃のスピードについていけなかったことだった。今回は、たとえ勝っても、そんな試合は見たくない。立ち上がりからどう猛な犬のように相手を追いかけ、追い詰め、ボールを奪って得点機をうかがう、ハリルホジッチ監督が目指すサッカーへの果敢な挑戦を見たい。
本田も香川も岡崎もいない。だからこそ、選ばれた選手たちは責任を感じなければならない。彼らに負けないメンタルの強さを見せなければならない。