四半期開示は不要か(十字路)
政府の成長戦略「未来投資戦略2017」は、上場企業に四半期ごとの経営成績や財務の開示を求める制度の再検討を求めている。近く本格的な議論が始まるが、四半期開示は不要なのだろうか。
米国では早くから四半期開示が定着した。日本や欧州でも、半年ごとの開示だけでは投資判断に必要な情報が十分得られないとして、今世紀に入ってから制度化が進んだ。
一方、四半期ごとの開示には批判もある。短期で成果を出すよう経営者や投資家に心理的な圧力を掛けるというものだ。そのため英国では07年に導入された四半期開示の義務が14年に撤廃された。
最近発表された学術論文は、わずか7年で制度が大きく変化した英国を取り上げた。開示義務の導入と撤廃が企業や市場に与えた影響について、その論文は分析。上場企業の設備投資や研究開発費を見る限り、義務化で経営が短期志向になるとか、撤廃で長期志向になったとの変化は見いだせないと結論づけた。
ただ、四半期開示の有無は投資行動を変化させるまでではないものの、アナリストのカバレッジには影響を与えるようだ。開示を始めた企業をカバーするアナリストが増えた半面、取りやめた場合は減少したという。調査の拡充は、中長期の企業価値の変化を重視する投資家が求める情報の供給増につながるはずだ。
日本でも法定開示と四半期決算短信の内容の重複を整理するなど、開示の効率性を高めるべきだ。しかし、実証研究の結果を踏まえれば、経営が短期志向になるという不確かな論拠で制度の改廃を論じるべきではない。
経済がグローバル化し、変化のスピードが速い現在、四半期ごとの情報は中長期志向の投資家にも有益だろう。思惑による短期的な株価変動には開示を減らすのではなく、長期的な視点に基づく丁寧な説明で対処すべきだ。
(野村総合研究所主席研究員 大崎貞和)