メッシ躍動 苦しんでアルゼンチンがW杯出場権
サッカージャーナリスト 沢田啓明
サッカーの1998年ワールドカップ(W杯)予選からすべての参加国がホームアンドアウェー方式で対戦するようになって、最もハイレベルで最も激烈な南米予選だったのではないか。
10日夜(日本時間11日午前)、南米各地で最終節(第18節)が行われた。上位4カ国が2018年のW杯出場権を獲得し、5位がオセアニア代表のニュージーランドと大陸間プレーオフを戦う。試合前の時点で出場権を手にしていたのは圧倒的な強さで首位を快走したブラジルだけ。エクアドル、ボリビア、ベネズエラは敗退が決まっており、残り6カ国がW杯出場を目指して激闘を繰り広げた。
■最終戦に勝利し3位に浮上
最も注目を集めたのは78年と86年のW杯で優勝している世界屈指の強豪アルゼンチンの動向だった。試合前の時点で6位に沈んでおり、勝たなければ最終順位が6位以下となって70年大会以来の予選敗退となる可能性が高かった。しかも過去の南米予選で1勝1分け3敗と大の苦手にしているアウェー(標高2850メートルの高地)でのエクアドル戦とあって、極めて厳しい状況だった。
アルゼンチンは試合開始直後、守備陣がロングボールの処理を誤って先制を許した。絶体絶命のピンチである。だが、この日のアルゼンチンは最近では珍しく落ち着いていた。しっかりパスを回し、得点のチャンスをうかがう。12分、左サイドのディマリア(パリ・サンジェルマン)からのパスをメッシ(バルセロナ)がゴール前で受け、左足で押し込んで同点に追いついた。20分にも、ディマリアからのパスを受けたメッシが豪快なミドルシュートをたたき込む。普段はゴールを決めても物静かなことが多いが、両手を大きく振り回し、全身で喜びを表した。さらに62分にもメッシがミドルシュートを決めてハットトリックを完成。守備陣もエクアドルの反撃をしのいで3-1と快勝。3位に浮上し、12大会連続17度目のW杯出場を決めた。
とはいえ、どのポジションにも世界トップクラスの選手をそろえる超大国がここまで苦しんだのは意外だった。迷走した最大の原因は、監督が2度も交代したことだろう。序盤はヘラルド・マルティーノ監督が指揮を執り、第6節まで3位とまずまずの成績だったが、15年南米選手権(コパ・アメリカ)と16年コパ・アメリカ創設100周年記念大会でいずれも準優勝にとどまった責任を感じて辞任。後任のエドガルド・バウサ監督は3勝2分け3敗と不調で、今年4月に解任された。そして、ホルヘ・サンパオリ氏が監督に就任。第15節でアウェーでウルグアイと引き分けたのは悪くなかったが、その後、ホームで下位のベネズエラ、ペルーとも引き分けて苦境に陥ったのである。
10月5日の第17節ペルー戦は、スコアレスドローに終わったとはいえ、試合内容は決して悪くなかった。速いパスをリズミカルにつないで攻め立て、8度の決定機をつくった。しかし、肝心のシュートが際どく外れたり、相手GKの驚異的なファインセーブがあったりして、どうしても点が入らなかった。
攻撃ではメッシ、守備ではマスチェラーノ(バルセロナ)とチームの軸になる選手がおり、脇役も多士済々だ。サンパオリ監督が驚異的な運動量をベースに激しいプレスで相手ボールを奪い、人数をかけた攻撃で相手ゴールに迫るスタイルを植えつけられれば、来年のW杯で上位に食い込む可能性は十分にある。
ウルグアイはスアレス(バルセロナ)の2得点などでボリビアに大勝し、予選を2位で突破した。伝統の堅守に加えて今予選得点王(8点)のカバーニ(パリ・サンジェルマン)、スアレスという傑出したストライカーがいる。W杯でも奮闘するはずだ。
4位以下は大混戦。創造性豊かなMFロドリゲス(バイエルン・ミュンヘン)を擁するコロンビアがアウェーでペルーと引き分けて4位に入り、2大会連続のW杯出場を決めた。大陸間プレーオフに出場する5位争いも激しかったが、コロンビアに先制されながら追いついたペルーが82年大会以来36年ぶりの本大会出場の可能性を残した。
■南米王者チリが予選で敗退
一方、15年コパ・アメリカと16年コパ・アメリカ100周年記念大会を制した南米王者チリがブラジルに完敗して前節の3位から6位へ転落し、予選で敗退した。MFビダル(バイエルン・ミュンヘン)、CBメデル(ベシクタシュ)ら世界トップレベルの選手がいる半面、選手層は薄くて調子の波が大きかったのが響いた。パラグアイは、ホームで最下位ベネズエラに勝ちさえすれば5位に食い込めたのだが、圧倒的に攻めながら決定力を欠き、カウンターから失点して敗退した。
14年W杯では南米から6カ国が出場してうち5カ国が1次リーグを突破した。その後、この大陸のレベルはさらに上がっている。来年のW杯では前大会以上の好成績を残すかもしれない。