TSMC、張董事長が引退へ 脱カリスマへ二頭体制
AIなど成長分野狙う
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は2日、事実上の創業者で経営トップを務める張忠謀(モリス・チャン)董事長が2018年6月の株主総会をもって引退すると発表した。2人の共同最高経営責任者(CEO)のうち、劉徳音氏が董事長に、魏哲家氏が総裁に就任する。カリスマによる一極集中の経営から「二頭体制」にシフトし、人工知能(AI)などで成長する半導体需要の開拓を加速する。
「来年の株主総会では取締役に再任されることはない」。2日、台湾・新竹市の本社で開いた記者会見で張氏はこう言い切った。
半導体受託生産のビジネスモデルと同社を一代で築いた張氏だが、86歳と高齢で引退が取り沙汰されてきた。ただ韓国サムスン電子などが切り崩しを狙う中、絶対的存在だった張氏が経営から退くのは簡単な決断ではない。TSMCは台湾証券取引所の株式時価総額合計の約2割を占めるだけに市場関係者は「張氏の引退は台湾市場最大のリスク」とみなしてきた。
実は張氏の引退は2度目だ。05年に現・聯発科技(メディアテック)共同CEOの蔡力行氏にCEO職を譲り第一線から退いた。しかし金融危機後の半導体不況で会社が危機に陥ると09年に突如復帰。V字回復を導き、16年12月期まで5期連続の最高益を達成した。
年間1兆円規模の投資で先端技術を磨き、顧客をひき付ける。今年9月に米アップルが発表した新型スマートフォン(スマホ)「iPhone」(アイフォーン)はAIに対応した最先端のシステムLSI(大規模集積回路)を採用している。TSMCは生産のみならず開発段階から関わることで、全量の生産受託を勝ち取った。
張氏は新体制について「これからは2人のトップが並列で経営をリードする」と説明。「劉氏は問題を熟考し、魏氏は決断が速い。非常に良い補完関係だ」とも述べた。劉氏が対外的な会社の代表者を務め、魏氏は内部で戦略や運営を担い役割を分担。AIやあらゆるモノがネットにつながる「IoT」、自動運転向けなど半導体の成長分野の需要取り込みを狙う。張氏は全ての役職を退き、「趣味の(トランプの)ブリッジや家族旅行を楽しむ」という。
一方、巨大なiPhone向けの受注を独占されてきたサムスンは、来年にTSMCより先に最先端品を投入して奪還をもくろむ。
今年9月には業界2位の米グローバル・ファウンドリーズが、欧州委員会に独占禁止法違反の疑いでTSMCを調査するよう訴えたとされる。カリスマ・張氏の後を担えるか、新経営陣は攻守両面で手腕を試される。
(台北=伊原健作)