住み込み看護師「コミュニティーナース」 過疎地をケア
京都などで募集 地域密着、きめ細かに
人口減少や高齢化が進み医療の手が届きにくい過疎地で、定住しながら住民の健康づくりに貢献する看護師を迎え入れる動きが広がっている。「コミュニティーナース」と呼ばれ、多くは自治体が採用。住民の体調を見守り、異変があれば病院へ橋渡しする。雇用が不安定といった課題はあるが、専門家は「地域に根ざし、高齢者ケアの中心となってほしい」と期待を寄せる。
「健康診断の結果が良くない。どうしたらいいやろか?」「少し足の具合が悪いんよ」。9月上旬、京都府綾部市の西八田地区にある公会堂。集まった60~80代の住民約10人の悩みに、3人の看護師が丁寧に耳を傾けていた。運動不足解消のため、背中や手足をほぐす体操も教える。
■農作業にも参加
同地区は約1700人の住民の約4割が65歳以上で、最も近い病院でも車で20~30分かかる。市は「普段から健康状態に目を配り、病気の兆候を察知して素早く対応できる人材が必要」としてコミュニティーナースを募集。3人が応募し、最長3年の嘱託職員として4月に移住した。
秋田県出身の鍋島野乃花さん(30)はその1人。コミュニティーナースの存在を知って「病院の外でも自分の力を試してみたい」との思いを強め、綾部市の募集に手を上げた。
移住後は公共施設などで毎週、住民らの健康相談に応じる。一人暮らしの大槻和歌子さん(84)は「病院に行くほどでもない体の不調を聞いてもらい励まされた」と喜ぶ。3人は祭りや農作業にも参加しており、鍋島さんは「一人ひとりの性格や暮らしを知ることできめ細かに対応できる」と力を込める。
徳島文理大大学院の金井一薫教授(基礎看護学)などによると、コミュニティーナースのような看護制度は欧州やタイで定着している。医師や訪問看護の看護師と異なり、活動の中心は病気を未然に防ぐための健康管理で、医療知識を生かし、病状などについて医師に的確に伝える役割も担う。
日本では2012年、超高齢化社会に対応した在宅医療の推進策として、埼玉県幸手市で国のモデル事業が始まった。2人のコミュニティーナースが「暮らしの保健室」と呼ぶ市内の約30カ所の拠点を回り、平日に電話相談に応じている。
奈良県は今年度から、地域医療にコミュニティーナースの仕組みを取り入れた。65歳以上が4割を超える山添村に4月、女性看護師1人を迎えたほか、8月から同村を含む5村でさらに数人を募集している。
■待遇に課題残す
ただ、全国各地に広がる取り組みにするには課題がある。導入した自治体の多くは人件費の一部を国の補助金に頼っており、契約期間も1~3年と短い。病院勤務の看護師が大多数を占める中、激務でも安定した賃金を得られる立場から、地方に生活の場を移す判断をするのは簡単ではない。
金井教授は「医療サービスが手薄な地域は増えており、健康を支えられる人材が身近にいることが大切」と指摘。「国や自治体、大学などが連携して長く安定して活動できる体制や専門の人材を育てる仕組みづくりが求められる」と話している。