平昌五輪へ仕切り直し J・フェルナンデス(上)
フィギュアスケート選手
故郷スペインでたっぷり1カ月過ごし、ハビエル・フェルナンデスは8月初旬、カナダの練習拠点であるトロント・クリケット・スケーティング&カーリングクラブに戻った。
来年2月には平昌五輪がある。羽生結弦ら練習仲間の始動は例年より早く、既に1カ月以上前から滑り込んでいる。その間、フリープログラムを振り付けたほかは、友達や家族と旅行し、スケート教室を開いて過ごしてきたフェルナンデスの動きは明らかに鈍い。
だが、慌てない。「まだ十分時間がある。1シーズンが終わったら仕切り直す、これが僕のやり方。今からプログラムが仕上がっていたら、調子を維持するのが大変」と笑う。
何をしても愛嬌(あいきょう)がにじみ出る彼の周りに人は集まり、笑顔が絶えない。しかし「やるぞ」とスイッチが入ったらやる。ブライアン・オーサーとトレーシー・ウィルソンの両コーチも笑いながら声をかける。「始動が早いみんなはできて当たり前。いいところを見せようなんて思わないで。ハビはゆっくり」
のんびり休暇を過ごしながらも、フェルナンデスは昨季のことを考えていた。「悪くないシーズンだったと思う。欧州選手権は5連覇したし、世界のトップを競う位置にいると証明できた」。ただ、3連覇がかかった世界選手権の後味は悪かった。
ショートプログラム(SP)を首位発進しながら、最終滑走だったフリーでミスを連発して4位。自分の前に演技した選手たちが4回転ジャンプを次々と成功させ、わき上がる歓声を耳にして緊張した。普通に滑れば優勝できる点差はあったのに。「ほかのスケーターがよかったからって、僕がナーバスになる必要は全くなかった。僕の仕事は自分の演技をすることなのにさ。いい勉強になった」
■故郷スペインのため表彰台誓う
しかし、3連覇できなくてよかったとも思っている。「世の流れとして、今季はすべての注目が現世界王者であり、前回五輪覇者のユズ(羽生)に行くよ。一歩引いて落ち着いていられるのはいい」
15、16年大会の優勝はSP2位から、フリーで逆転してのものだった。「ハビはアンダードッグ(勝ち目の薄い人)でいるほうがいい」とオーサーも話す。
テニス、サッカーとスターを輩出し続ける母国だが、冬季競技はお寒い限りだ。フェルナンデス以前の男子フィギュア五輪代表は1956年まで遡り、冬季五輪のメダルも計2個だけ。「僕個人は金メダルがほしい。でもスペインのためには何が何でも表彰台に乗ることが大事」と話す。
そんな彼にオーサーが選んだフリープログラムは2~3年前から温めてきた、スペインが舞台のミュージカル「ラ・マンチャの男」だ。「代表曲『見果てぬ夢』の歌詞にあるだろう、手の届かない星に到達する、って。演技する姿を考えただけで胸がいっぱいだ」。オーサーはうっとりと目をつぶった。(敬称略)
〔日本経済新聞夕刊8月21日掲載〕