タクシー事前確定運賃 きょうから実験
日本交通などタクシー大手4社と国土交通省は東京都内で7日、配車アプリで運賃を事前に決めて乗車してもらう実証実験を始める。3000円以上の長距離ルートが対象で、目的地までいくらになるかわからない不安を拭う。東京五輪・パラリンピックに向け、訪日外国人への交通サービスの質を高める。
日本交通と国際自動車(東京・港、西川洋志社長)、大和自動車交通、第一交通産業の4グループ計44社が10月6日まで、東京23区と武蔵野市、三鷹市で実験する。
消費者はスマートフォンに各社の配車アプリを取り込む。タクシーに乗る場所、降りる場所を入力すると、アプリの地図に走行距離や所要時間が示される。迎車の料金もふまえて、合計金額がはじきだされる。
3000円以上のルートであれば、配車を頼める。配車ボタンを押せば、実験に参加している4648台の中から近い車が乗車地に来る。渋滞などが生じても運賃は変わらない。
タクシーは通常、時速10キロメートル以下で走っていると90秒で80円かかる。実験での走行中は、メーターをカバーで覆うものの作動はさせている。アプリで決めた運賃と、実際のメーターとの差を2%に抑えるためだ。
国交省は事前に確定した運賃が実際の走行に照らして適切であったかどうかの検証や利用者アンケートを通じ、必要な制度を検討する。
新たな仕組みは訪日客へのサービスの質向上を狙っている。今年1月、初乗りを2キロメートル730円から約1キロ410円に変更したことで心理的なハードルが下がった。だが、それだけでは不十分だ。
海外旅行先として日本を選ぶ人は確実に増えている。タクシー運賃への不安が観光の足を引っぱっているなら、払拭する意味は大きい。
政府は5月にまとめた「観光ビジョン実現プログラム2017~世界が訪れたくなる日本を目指して」の中で、公共交通の利用環境を改善する方策をいくつも挙げた。その中で「世界水準のタクシーサービスの充実」を掲げ「多言語対応のアプリを活用した、配車時に運賃が確定するサービスを実施する」と記した。
ただ、日本の配車アプリは訪日客にはほとんど知られていない。日本交通と第一交通はまず、実験に使うアプリの表記を英語など外国語に対応させる。
日本交通は年内にも、韓国IT(情報技術)大手のカカオと連携する。配車アプリ「カカオタクシー」の利用者が入力した配車情報を、日本交通に流し、乗客を迎えに行く。タクシー業界は東京五輪を見据え、次々と訪日客向けの施策を打ち出している。
自家用車で乗客を有料で運ぶライドシェア(相乗り)大手の米ウーバーテクノロジーズは米国などで、アプリによって運賃を乗車前に確定するサービスを実施している。その意味で今回の東京での実験は、ライドシェアが普及しはじめている米国や中国の知名度の高いサービスが日本市場で台頭してきたときへの備えにもなる。
バスや電車は、乗る前に運賃がわかることがほとんどだ。タクシーに何人か一緒に乗る場合は、運賃が事前に決まれば1人当たりの金額でバスや電車と比較できる。タクシー業界としては、移動方法の選択肢としての魅力を高められる効果も見込んでいる。
実はタクシー業界と国交省が訪日客をターゲットに考えているサービスは他にもある。
同じ方向に向かう複数の乗客をアプリで仲介する相乗りタクシーの実現もめざしている。相乗りした人で運賃を負担しあう仕組みを想定している。このときの不公平感の解消が課題だ。
観光立国に向けた政府のタクシーサービスの充実策には、プライベートリムジンの全都道府県への導入、ユニバーサルデザイン車両の拡大もある。五輪が開かれるまでに、日本人にとっても意義のあるサービスが広がりそうだ。
(企業報道部 清水孝輔)
[日経産業新聞8月7日付]