信頼増す目配りと気配り 女子サッカー・本田美登里(下)
長野パルセイロ・レディース監督
「フランクで、壁を作らない監督」。長野パルセイロ・レディースのボランチ、国沢志乃には本田美登里(52)の姿がそう映る。主将・坂本理保も、やりとりしやすい垣根の低さに感謝する。「監督らしくない監督というか。全く知らない人が眺めたら、監督だと分からないかも」と。
ただし本田は何気なく眺めるようで、どこで誰が何をしているか、逃さずとらえる。例えば中心選手の横山久美とのやりとり。「さっきのプレー、あそこでミスしたでしょ」「え? 見てた?」「見てたわよ」
「ワンシーンごと、細かい部分も見ているなあ」と話す坂本は、CBとして苦手なプレーをまんまと見抜かれ、指摘されたことで改善できた。
25番目かもしれない選手にも本田は「次はいつ(レギュラーの)ピッチへ戻ってくるの?」と一声かける。26選手全員にそうする。親の心子知らず、「もう声などかけない」と腹が立つ時もある。すると別の選手が「最近あの子を見ていないでしょ」とズバリ。本田の目配りを選手も見習いつつあるらしい。気配りの網目は信頼を強める。
■選手を掌握する秘訣とは…
「女子選手は男子と少し違う部分で、ピッチ上やプレー以外でも気を配るべきことが多い」と本田。同性で代表選手でもあったから、選手が何にいらだち、喜ぶかは何となく分かる。「男性が奥さんに気を使う以上の気を、選手に使えます」。これが掌握術の秘訣。
某日、女子スポーツを指揮する男性監督らが「女子選手は面倒」と語る番組を目にした。手帳に誕生日を書いておき、忘れず一言かけねばついてこない、万事その調子――。本田は腹立たしさを覚えた。誕生日はともかく、細部まで目と気を配らないと選手との信頼は築けないことを、「女子は面倒」と片付けられては納得いかない。
そんな一事にも思う。真剣に女子サッカーのことを考え、チームと向き合う指導者がどれだけいるだろうか。女子を預かるのはたまたま、誘いがあれば男子をみたい――。本田は違う。元「なでしこ」として、監督としても17年近く女子サッカーと歩み、生きてきた。
長野では体作りを専門とする「コンディショニングコーチ」を新たに雇い、おろそかになりがちなフィジカルの強化とケガ防止につなげた。関係各所に頭を下げ、練習開始時間を午後6時から同4時へ前倒しした。練習と休息の質を高めるためだ。男子チームがうとむ地域のイベント、幼稚園訪問にもすすんで派遣する。女子サッカーを根付かせるためにあの手この手を尽くしてきた。
その成果が1部昇格1年での3位躍進だが、こう簡単に3位にさせてはダメと苦言を呈する。「私たちは技術で劣る分をフィジカルで補い、環境を整え、必死にやってきた。でも8位が精いっぱい――。日本の女子はそういうレベルであってほしい」。長野を足場としつつ、視線はその先へ投げかける。世界で戦える女子サッカーを作れているか、と。(敬称略)
〔日本経済新聞夕刊5月31日掲載〕