樋口広太郎(29)アメフトを応援
地味な役割の選手に共感
アメフト 母校・会社で応援に熱 廃部する企業に継続説得
スポーツでは、アメリカンフットボールが好きです。ヘルメットと防具をつけた選手がぶつかり合うところは迫力満点ですが、体力の違いから日本人向きではないと言われています。実際、米国の一流選手の破壊力はすさまじいの一語です。
そう言えばオペラも、日本人は欧米人と発声の仕方がもともと違っているので、上達するのが難しいそうです。よりによって我が国では歴史が浅く一般に馴染みの薄いアメフトとオペラが好きなのは、私の性格に原因があるのかもしれません。人と違うことをやりたがり、困難であればあるほどファイトが湧くたちだからです。
以前から母校京都大学のアメリカンフットボール部を応援してきました。アサヒビールでも、社会人のクラブチーム、シルバースターのスポンサーになっています。シルバースターは93年、94年、2000年と3度、日本一の栄冠に輝いています。関連会社のアサヒ飲料がスポンサーのチームも、2001年の正月3日のライスボウルで学生王者の法政大学を破り日本一になりました。
シルバースターはクラブチームですから、アサヒビールが応援するまで、合宿から遠征まで何から何まで自分たちだけでおカネを出し合ってやってきました。選手はそればかりか練習などの時間のやりくりにも苦労します。その代わりアメフトが好きで好きでたまらないという人たちが集まっています。職業は自営業、サラリーマン、教師など様々です。企業チームならば社員の資格が要りますが、クラブチームはやりたい人が自由に参加できます。これはスポーツの原点で、応援のしがいがあるというものです。
京大のチームは最初、ボロボロのユニホームを着ているのを見て驚きました。京大には水野弥一さんという名監督がいます。国立大学の監督の仕事は全くの手弁当でやっておられます。コーチもボランティアです。水野さんは別に会社を経営しているのですが、学習塾も開き、有望な高校生がいると、勉強を教えて京大に受験させるという熱心さで、頭が下がります。
後援会長を務めたのは、選手、監督、コーチのひたむきな姿勢に打たれたからです。クラブハウスは水野監督が中心になって建設したのですが、当初寄付を予定していた会社が経営に行き詰まり、宙に浮いてしまいました。そこで私が募金委員長になって資金集めを手伝い、ことなきを得ました。
京大アメフト部は84年、87、88、96年と4回、日本選手権で優勝し、従来から比較的高かった関西でのアメフト人気をさらに高めるのに貢献しました。
2000年1月から日本アメリカンフットボール協会の初代コミッショナーをやっています。厳しい経営環境を反映して、廃部を考える企業が時おり出ます。そんな時に「一度試合をご覧になってから考えてください。解説する者もお付けしますから」と、オーナーに部の継続を頼むのが私の役目です。
私自身、子供のころからスポーツをするのは大好きでした。小学校では、少年野球のチームに属し6番、ショートでした。中学校では柔道をやりましたが、小柄だったので強くなれませんでした。彦根高商では水泳部に入り、平泳ぎでかなりいい成績を残しました。京都大学ではグランドホッケーを一時やり、サッカー、テニス、野球と手当たり次第に楽しみました。ゴルフもかなり早くから始めて、ハンディは14までいきました。
プロゴルファーの青木功さんやグレッグ・ノーマンさん、樋口久子さんらと親しくさせていただき、アドバイスを受ける機会にも恵まれましたが、上達したかどうかは定かではありません。
防衛問題懇談会の座長になった時に、ゴルフにまで警備がたくさん付くようになって、プレーを自粛しました。再開したら腕が落ちていて楽しさ半減です。カントリークラブの理事長はいくつかやっていますが、プレーから自然に遠ざかってしまいました。最近は専らおしゃべりだけで、動かすのは口だけかと冷やかされそうです。
しかしトッププロの方々からはゴルフの技術を超えていろいろなことを学び、有難く思っています。トッププロはみな自分の美学に応じたスタイルを持っていて、さらに豊かな人間性を備えています。それが素晴らしいプレーとともに多くの人を魅了してやまないのでしょう。
スポーツを通じて私がもう一つ思うのは、地味な役割を黙々とこなし、決して表立ってほめたたえられることの無いアンサング・ヒーローの存在を忘れてはならないということです。アメフトではボールを持って突進するオフェンスの選手は注目されますが、ディフェンスの選手は目立ちません。しかし彼らがきちんと守りを固めなければ、ゲームは成り立ちません。
世の中はこうしたアンサング・ヒーローの人知れぬ努力によって回っているのです。企業はまさにそうです。当たり前のことを当たり前にこなす、すぐそこにいる英雄たちに目を向けるフェアな精神を大事にしたいと私は思います。