松山「パット磨き帰ってくる」 マスターズへの誓い
編集委員 吉良幸雄
9日に第81回大会の幕が閉じた伝統のマスターズ・トーナメント(オーガスタ・ナショナルGC=7435ヤード、パー72)。今年の「ゴルフの祭典」には、そこに居るべき人が何人も欠けていた。1人目はマスターズで4勝し、米国にゴルフブームを巻き起こした「キング」アーノルド・パーマー。1955年から2004年まで50回連続出場、07年から昨年まで名誉スターターを務めていた。大会初日の6日朝8時前、昨年9月に87歳で逝去した希代のヒーローに向け、「帝王」ジャック・ニクラウスが天に帽子を振り、目に伝う涙を拭って始球式を行うシーンは感動的だった。「パトロン」と呼ばれるマスターズのギャラリーには「I AM A MEMBER of "ARNIE'S ARMY."(私はパーマー軍団の一員)」と記された白い缶バッジが配られ、選手や関係者、ゴルフファンがパーマーをしのんだ。
■ウッズ、競技人生危ぶまれる
2人目は大会4勝を含めメジャー通算14勝(米ツアー79勝)のタイガー・ウッズ(米国)の欠場だ。腰の手術などから昨年12月に1年4カ月ぶりに実戦に復帰した。しかし今年に入って米欧ツアーに各1試合出ただけで再び休養に追い込まれた。これで2年連続欠場。41歳という年齢を考えると、今後の競技人生が危ぶまれる。
公式練習日の3日と5日、激しい雷雨がオーガスタを襲い、練習やラウンドは中止、入場していたパトロンも安全確保のためコースから閉め出された。異変は天候ばかりではなかった。恒例のパー3コンテストが途中で中止された5日。昨年の全米オープン覇者で世界ランク1位のダスティン・ジョンソン(32、米国)が大会用に借りていた家の階段から転倒、腰を強打して病院で治療を受け、出場が危ぶまれるというニュースが走った。初日の6日にジョンソンはコースに現れ、コーチのブッチ・ハーモン氏に見守られながら練習場でボールを何発も打ったが、インパクト時に違和感を感じるらしく、午後のスタート直前にコースに出るのをあきらめた。2週前の世界選手権シリーズ、デル・マッチプレーまで出場3大会連続優勝。マスターズでは大本命に目されていただけに、「主役」の不在は実に残念だった。
ただ最終日の優勝争いは混戦で、見応えがあった。バックナインでは、「無冠」返上を期したセルヒオ・ガルシア(37、スペイン)と、13年全米オープン覇者で昨年のリオデジャネイロ五輪金メダリストのジャスティン・ローズ(36、英国)の一騎打ち。ガルシアが15番(パー5)でイーグルを奪うなど追いつ追われつ、互いに譲らない。本戦の18番(パー4)ではローズがピン右3メートル、ガルシアは奥2メートルのバーディーパットを外し、通算9アンダーで並びプレーオフにもつれ込んだ。プレーオフの18番でローズがティーショットを曲げ、結局3オン2パット。4メートルのバーディーパットを沈め、悲願のメジャー初制覇を遂げたガルシアは勝利の雄たけび。メジャー挑戦74回目にしてやっとつかんだタイトルに、万感の思いをあふれさせた。
初出場した14年から2位、優勝、2位と「オーガスタに愛されている男」ジョーダン・スピース(23、米国)は初日に15番(パー5)で池につかまり「9」をたたくなど3オーバー、75とつまずいた。首位とは10打差。過去、初日に8打差以上離されて、逆転優勝した例はない。2日目から反撃、最終日は首位と2打差の4位から逆転Vを狙ったが、昨年の最終日に池に2発入れ「7」をたたいた12番(パー3)でまたもや"池ポチャ"。結局1アンダーの11位に終わった。「ジンクス」は生きていたのだ。
■世界の頂点目指す「孤高の人」
一昨年が5位で昨年は7位。コースとの相性も良く、メジャー初制覇を目指した松山英樹(25)も、初日76と出遅れたのが響いた。この1カ月半ほどショットが乱れる傾向があったが、強風の下、コントロールが効かずティーショットがぶれ、前半で3打落とした。2日目に70と盛り返したものの、3日目に18番でまさかの4パット、ダブルボギーをたたき優勝の望みはついえた。それでも最終日ベストスコアの67とチャージ、28位から11位に順位を上げ、来年の出場権(12位以内)を確保したのは、地力のある証拠だ。もちろん、マスターズ出場資格の世界ランク50位以内から外れることもないだろうが。
「パットをまた1年磨いて帰ってくる。(米ツアー新シーズンが始まった昨年10月から国内外で6戦4勝した)去年の年末くらいのパットができれば、絶対勝てる自信がある」。年明けからも、マスターズ制覇を目標に戦ってきた。もっといい結果を残せたはず。ゴルフ内容には到底納得はできない。2月のフェニックスオープン優勝後、予選落ちもあり25位が最高と精彩を欠いていたが、再浮上のきっかけはつかめたのか。「(そうとは)思わない。(いいのは)アイアンだけ」。高速グリーンに苦しめられ、ティーショットも最終日を除くと不安定。7番(パー4)はダブルボギー2回、ボギー1回(最終日はバーディー)で4オーバーと「鬼門」となった。
松山はいったん日本に帰国して休養し米ツアーに戻るが、試合スケジュールは未定という。次のメジャー、全米オープン(6月)に向け「克服したいことは?」と聞かれると「多すぎて何も言えない」。自分に厳しく、簡単に妥協はしない。メジャー優勝しか眼中にないのだろう。連日のインタビューでも、テレビの取材にちょっと笑顔をのぞかせるだけ。新聞などのメディアに対しては、終始厳しい表情だった。険しい世界の頂点を目指す25歳は、「孤高の人」でもある。
(米ジョージア州オーガスタで、吉良幸雄)