侍ジャパン 米国戦で得た財産と大いなる教訓
第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は米国の初優勝で幕を閉じた。名将のリーランド監督は「米国を再び偉大にしたかったんだ」とトランプ大統領の言葉を引用して喜びを表現。過去3大会以上に熱意を持った選手を集めて戦える集団をつくり上げ、野球の母国としての威信を取り戻した。その米国に日本は準決勝で1-2で敗れた。わずか1点差。されど、その1点が遠かった。
■慣れぬ天然芝、雨…響いた痛恨の守備
雨中の試合で守備のミスが響いた。四回は菊池涼介(広島)の失策から先制され、八回には松田宣浩(ソフトバンク)が何でもないゴロを捕り損ねて(記録は三ゴロ)勝ち越し点を献上。不慣れな上にたっぷりと水を含んだ天然芝のメジャー球場でのプレーは、人工芝に慣れた選手には難しかったかもしれない。守りの野球を信条としてきたはずの日本がみせた綻びをうまくつかれた。
もっとも、野球は点取りゲームであることを考えれば、それを上回るだけの攻撃ができればよかった。だが、打線が挙げた得点は菊池のソロだけ。1次、2次リーグと無傷の6連勝を支えた各打者を苦しめたのは打者の手元で動くツーシームだった。
相手先発のロアーク(ナショナルズ)は球速150キロ前後で変化する球を持ち、昨季16勝を挙げた右腕。1次リーグのドミニカ共和国戦では2番手として登板し、1回1/3を3失点していた。付け入る隙はあるとみていた小久保裕紀監督は強引な打撃にならず、コンパクトにセンターに打ち返すよう指示。少ないチャンスを何とかつかもうと試みた。
■予想以上に球威があった先発ロアーク
それが一筋縄ではいかないことは序盤の攻撃を見ても明らかだった。警戒していた以上に威力があり、青木宣親(アストロズ)や筒香嘉智(DeNA)は詰まらされた。大会中に3試合連続本塁打もあった中田翔(日本ハム)もタイミングが合わない。「見た目以上によかった。あれだけ低めに投げられる投手はあまりいない。球はきていたし、本当に曲がっていた」と青木。打てそうで打てない。そんなジレンマの中で試合は淡々と進み、攻撃の機会は失われていった。
ロアークが降板した後も米国は初見では対応しきれない厄介な投手をどんどん投入する。八回2死一、二塁で筒香を迎えた場面では変則右腕のニシェク(フィリーズ)が登板。ただでさえタイミングが取りづらいのに、筒香は沈む球に翻弄された。
■東京で対戦した投手と「ランクが違う」
いい角度で打球を飛ばしたが失速して右飛。「東京(1次、2次リーグ)でやっていた投手とはランクが違い、動くボールのスピードや動きの幅が違った」。小久保監督もメジャーの一線級を攻略する難しさを感じていた。
もちろん無策だったわけではない。こういう状況に備えて宮崎での強化合宿から対策はしてきた。日本の打者は足を上げてゆっくりタイミングを取る選手が多いため、フリー打撃では投球モーションの速い外国人投手を想定して打撃投手の距離を近くしたり、空気抵抗で不規則な動きをする発泡スチロールの球で目を慣れさせたり。稲葉篤紀打撃コーチは青木に話を聞き、仁志敏久内野守備走塁コーチが持ち込んだ練習法を取り入れるなどできる限りの策は打ってきた。
それでも本番は勝手が違った。「球自体にスピードは感じなくても、ツーシームで差し込まれてしまう打席が多かった。日本であそこまで動くボールを投げる投手はいない。それにてこずってしまった」と中田はいう。
先発が100球程度で降板する米大リーグではツーシームが主流で、バットの芯を外して効率よく打ち取ることを理想とする。ボールが滑りやすい上に縫い目が一定ではなく、日本の統一球より変化が大きいこともツーシームが多くなっている要因。昨季限りで引退した黒田博樹はこの球を駆使していたが、きれいな球筋の球を投げる投手が多い日本では、そこまで対戦する機会が多くないのが現状だ。
■野球とベースボールの違いが勝敗分けた
メジャーでは日本以上に個性を磨き、結果を残さなければ激しい競争社会では生き残れない。だからニシェクのような変則投手が出てくる。そうした日米の野球のスタイルの相違も明暗を分けたか。青木は「野球とベースボールの違いがある。それが勝敗に結びついた気がする」と語っていた。外国人投手に苦手意識を持たないようにするには国際大会での経験を積み重ねていくことしかないだろう。
一方で、青木は「日本流でいい。メジャーの選手は素晴らしいけど、日本だって負けていない。野球はやり方次第で勝てるのだから」とも話す。菊池のように、長距離打者の体格ではなくても右方向に本塁打を打てるし、ひとたび出塁すれば山田哲人(ヤクルト)のように盗塁して"二塁打"と同じシチュエーションをつくることもできる。そうした日本の野球のレベルの高さを世界に示せたのは事実で、それほど大きな差が米国との間にあるわけではなかろう。
退任を表明した小久保監督は「日本はフォーシーム(ストレート)中心なので難しい部分はあるが、(1次、2次リーグでは)本塁打も出た。それは以前よりもトレーニングが発達し、メジャーのボールに負けないくらいの筋力アップができたという証しでもある。そこはもっと伸ばしていけばいい。世界のトップはこうだというのを経験したことも財産になる」と総括した。今回は若い選手も多い。3年後の東京五輪、そして4年後に開催が予定される次回大会に向けてこの敗戦をいい教訓にしたい。
(渡辺岳史)