WBC新勢力 イスラエル躍進の意義
編集委員 篠山正幸
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、韓国などを破って2次リーグ進出を果たしたイスラエル。米マイナーリーグの選手が主体のチームは米国の第2、第3代表との指摘もあったが、新勢力の躍進は野球の世界的な広がりにつながるものと期待される。
■目についた緻密な試合運び
「試合前にコーチやアナリストとともに立てたプラン、シミュレーションにのっとった展開だった。それがチーム・イスラエルの戦い方」。12日、東京での2次リーグ初戦となったキューバに逆転勝ちしたイスラエルのジェリー・ウェインスタイン監督は胸を張った。キューバの主砲、アルフレド・デスパイネ(ソフトバンク)のソロを浴びたものの、逆転勝ち。
特に3-1から相手の息の根を止めたスクイズは見事だった。セーフティー気味のバントだったが、「サインプレーだよ。相手が左投手で三塁走者は見えない。最高の状況だった」と同監督。情報収集力と分析力を土台とした、緻密な試合運びが目についた。
この試合の先発はカージナルスなどで124勝を挙げた元大リーガーのジェイソン・マーキー。しかし、大物といえる存在は乏しく、ユダヤ系の選手を集めたチームのほとんどが3A、2Aに所属している。28選手のうち、イスラエル国籍を持つのは2人とされる。
試合後の会見場に一瞬、緊張が走ったのはウェインスタイン監督に「イスラエルといっても実質的には米国の第2、第3代表ではないか」との質問が飛んだとき。
「その見方には同意しかねるね」と監督は抑制をきかせながらも、きっぱりと言った。
スポーツにはお国柄が出るものだが、もしイスラエルの野球にイスラエルらしさがあるとすれば、それは何か? 「日本やオランダ、キューバと同じように、我々もイスラエル国民の期待を負ってプレーしている」。質問に対する答えにはなっていなかったが、その口調に誇りと確信が感じられた。
大会前に、10人ほどの選手が野球連盟の招きで、イスラエルを訪れたといい、国の代表の意識を高めての参戦だった。主力の一人で外野手のサム・フルドは「ニューヨークでの予選で勝ち上がってから、チームとしてまとまる時間があり、みんな仲良くなれた。いろいろな選手がミックスして構成されたチームだが、目標は一つ」と国旗を背負った戦いの充実感をにじませた。
■野球界に厚みと広がり加える
2次リーグ敗退となったが、1次リーグでホスト国の韓国のほか、台湾、オランダを連破して起こした「ソウルのサプライズ」の意義は小さくない。
実質的には米国のチームではないか、といわれようが、イスラエル本国での野球への関心が少しでも高まる結果になれば、野球の国際化を狙いの一つとして創設されたWBCの「本分」にかなうことになる。
五輪種目への採否の議論で、必ずつきまとうのが、世界的な広がりの問題。実施国数など、形の上では要件を満たしているものの、レベルの差が著しい。
メジャーに準じるレベルのプロリーグを持つ国はアジア地域や、中南米地域に限られ、WBCで優勝を狙える国・地域となると、さらに限定される。プロのトップが集う「真の頂上決戦」をうたうWBCはややもすると、野球の世界の"狭さ"を浮き彫りにしてしまう。そうしたなか、「新顔」ともいえるイスラエルの躍進は多少なりとも野球界に厚みと広がりを加える出来事であり、WBCの理念からいっても歓迎すべきことではないか。