攻撃的な新システムに手応え 今季のG大阪に注目
サッカージャーナリスト 大住良之
Jリーグ1部(J1)18クラブの先陣を切って、G大阪が今シーズン初めての公式戦を戦った。サッカーのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)本大会出場を懸けたプレーオフ、マレーシア・チャンピオンのジョホール・ダルル・タクジムを迎えての一戦である。
以前は日本から4クラブがストレートに32クラブによる1次リーグに出場していたACL。しかし2015年に規約が変わり、1クラブはプレーオフからの出場となった。ホームでの1戦制という有利な条件だが、日程的には非常に難しい。
■前半の2点、新システムが奏功
15年は柏がタイのチョンブリを迎えて延長の末、3-2でようやく出場権を獲得。昨年はFC東京がやはりチョンブリと戦い、9-0で勝利を収めた。そして今年は、G大阪がジョホールを3-0で破って本大会出場の切符をつかんだ。
昨年の天皇杯で準々決勝(12月24日)まで戦い、1月中旬にトレーニングを始めて約3週間、G大阪の長谷川健太監督は、この試合で勝つためのメンバーを早くから絞り、何よりも優先してその11人を鍛えるという形でトレーニングを行ってきた。
GKは東口順昭。DFは右から呉宰碩(オ・ジェソク)、三浦弦太、ファビオ、藤春広輝、MFは右から井手口陽介、遠藤保仁、今野泰幸が並び、トップ下に倉田秋が位置して、FWのアデミウソンと長沢駿をサポートする形。昨年の天皇杯準々決勝で導入した「4-3-1-2」と呼ばれるシステムだ。ただ、倉田は自由に動き回り、2人のFWと並ぶ3トップのような形になる時間も短くなかった。
試合は26分に左から今野が入れたクロスをアデミウソンがヘディングで決めて先制し、その3分後にはやはり左サイドを破って藤春が送ったグラウンダーのクロスを長沢が左足でたたき込んで2-0とした。
この2点には、G大阪の新システムの成功が早くも表れていた。ボランチの左サイドを務めた今野が果敢に左外に上がり、押し上げてくる藤春と2人がかりで突破、チャンスをつくったのだ。
先制点のときには、藤春が内側に入り、その外側に流れた今野のところに相手に当たったボールが来て、その今野のクロスが得点を生んだ。そして2点目のときには、藤春がスピードを生かして突破する。今野がニアポスト前まで走り、長沢をフリーにした。
今野の活発な動きで、G大阪の左サイドが非常に強力な武器になったのは間違いない。ただ右サイドは、呉宰碩も井手口も攻撃面はいまひとつで、効果的な突破はほとんどなかった。
■倉田が生き生き、変幻自在に
もう一つ、新システムの効用は、倉田が生き生きとプレーできていたことだ。前述したようにかなりの自由を与えられており、トップ下だけにとどまらず、2人のFWの間に割って入ったり左右に流れたりと、変幻自在なプレーで相手の守備陣を混乱させた。
「年末の天皇杯前から練習してきたポジションなので、自然に体が動くようになった。手応えを感じている」
ジョホール戦の後、最優秀選手(MVP)の表彰を受けた倉田はこう語っている。
前半の2得点は、いずれも倉田のドリブルとパスが左サイドの突破を生んだもの。本人は「得点もアシストもなかった」と不満げだったが、今後の対戦相手はこの倉田をどう抑えるかが重要なポイントとなるだろう。
DFラインでは、清水から移籍してきた21歳の三浦と、横浜FMから移籍してきた27歳のファビオが攻守両面で活躍した。
三浦は持ち前のヘディングの強さだけでなく、70メートル級の斜めの超ロングパスで左サイドに位置するFWに何回もチャンスを与えた。70分には、MF遠藤の右CKを豪快にヘディングでたたき込み、早くも移籍後初ゴールを記録した。
そしてファビオは1対1の守備の強さとともに落ち着いたボールキープと縦への鋭いパスで攻撃の起点となった。G大阪は昨年まで多くの試合に出ていたDF岩下敬輔(福岡に移籍)と西野貴治(千葉に移籍)を放出し、三浦とファビオを獲得したのだが、「収支」は大きなプラスとなったようだ。
■両FW抜け、選手層の厚さ気がかり
昨季はシーズン半ばでエースのFW宇佐美貴史がドイツに移籍、一昨年の調子が出なかったFWパトリックも10月に大けがと、攻撃面で苦しんだ。アタッカーの戦力アップはできたのだろうか。
シーズンオフには、MFの両サイドでチャンスメークと得点にからんでいたMF大森晃太郎(神戸に移籍)と阿部浩之(川崎に移籍)の2人を放出。大宮からドリブル突破を得意とするMF泉沢仁を、そして千葉からは運動量豊富な井出遙也を獲得したが、ジョホール戦では泉沢が81分から出場しただけで、井出はベンチにもはいらなかった。
レギュラーといってよかった阿部と大森の穴を泉沢と井出で埋めた形だが、宇佐美とパトリックの代わりを獲得できたわけではない。そこを新システム(新しい攻撃のコンビネーション)で補い、さらに戦力アップを狙おうというのが、長谷川監督のアイデアのようだ。
しかし「選手層」という面でみれば、攻撃陣も守備陣も厚くなったわけではない。ACLとJリーグを並行して戦うなかで、そこが気がかりなところだ。
ただ、G大阪にはアカデミー出身のタレントがそろっている。昨年U-19(19歳以下)日本代表でアジアのチャンピオンとなり、今年は5月から6月にかけて韓国で開催される国際サッカー連盟(FIFA)U-20ワールドカップで活躍が期待されている若手がDF(サイドバック)初瀬亮、MF(ボランチ)市丸瑞希、そしてMF(攻撃的MF)堂安律と、3人もいる。3人ともジョホール戦のベンチに入り、堂安は88分からFWとして出場し、短時間で惜しいシュートも放っている。
彼らの成長次第では、選手層の懸念は払拭されているかもしれない。
13年、J2に降格した年に就任した長谷川監督は今季で5シーズン目。昨年後半は悩みに悩んだが、天皇杯を前に試みた新システムが機能し、G大阪らしい攻撃のリズムがよみがえってきた。
■両サイドの攻撃、機能するかカギ
バヒド・ハリルホジッチ監督から高い評価を受けて昨年11月に日本代表入りしたMF井手口が力を示し始めれば、左サイドだけでなく右サイドも相手に脅威を与えることになるだろう。両サイドが機能したら、G大阪の攻撃力はJリーグで屈指のものになるに違いない。
大量補強で昨年とは全く違うチームとなったFC東京、MF柴崎岳は失ったものの、MFレオシルバやFWペドロジュニオールら大型補強に成功した鹿島、あるいは日本代表MF清武弘嗣が欧州から戻ってきたC大阪などのような華々しい変化があったわけではない。しかしG大阪は、新センターバック2人と攻撃的な新システムにより確実にバージョンアップした。17年のACLとJリーグで、注目に値するチームの一つであるに違いない。