大谷のWBC欠場で見えた侍ジャパンの課題
編集委員 篠山正幸
野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表から日本ハム・大谷翔平がはずれたことの波紋は大きい。しかし故障のリスクは誰にでも、常につきまとっている。これを2020年東京五輪などの国際大会の教訓にできるかどうか、今後に目を向けるべきだろう。
大谷本人にとっても無念の決断であったことは、1月に自主トレを公開したときの表情を振り返っても想像がつく。
WBCについて「始動がちょっと早くなってくると思うので、そこに合わせていきたい。1カ月くらいは早いかな、と。ブルペンの球数や強度も……」。
WBC球についても「まだブルペンで本格的に投げてないし、強度を上げたときにどのくらい手元から離れる感じになるのか。まだ2カ月ちょっとあるので、そのなかでしっかりやっていきたい」などと語っていた。わからないことだらけだが、そのわからないことさえも楽しみと捉え、心待ちにする感じが伝わってきた。
日本ハム側の話によれば、この時点では右足首の故障を抱えていたことになるが、当人もここまで深刻なものになるとはみじんも思っていなかったのだ。出場辞退は悪夢としかいいようのないものだったろう。
小久保裕紀代表監督は1月28日前後に日本ハム・栗山英樹監督と連絡を取り、体に不安があることを把握していたという。しかし、それから日を置かず「投手としての出場辞退」が伝わってきた。
代表首脳陣のなかにはキャンプで本格的なトレーニングを始めたうえでの決断ならわかるが、との反応もあったという。いかに大谷への期待が大きかったか、ということだが、日本ハム側としては離脱のリスクがあるならば、早めに通告した方がよいという「善意」に基づくものだったとも受け止められる。
■代表チーム常設化もなお行き違い
代表チームと個別球団・選手との連絡を密にする目的もあって、侍ジャパンを常設化したのだが、それでもなお、こうした行き違いが生じる。選手の契約関係や活動のベースが球団となっている以上、健康管理も球団が主体となり、その情報は機密に属するが、代表チームとしてもう少し密に健康状態を把握できないものかどうか。東京五輪に向けても考えておかなければならない。
大谷が抜けた先発投手陣の残り1枠に、ソフトバンク・武田翔太が選ばれ、代表28人がでそろった。ここまでの選手の招集過程をみると、代表チームや代表監督の位置付けについても、まだまだ球界全体で考えていく必要があると痛感させられた。
メジャーから参加したのは青木宣親(アストロズ)のみ。昨年8月、小久保監督は渡米しメジャー各球団の日本人選手を訪ねたが、行脚の成果は乏しかった。日本代表、ひいてはWBC自体の位置付けについて、必ずしも共通認識が得られていないところに根本的問題があるように思われる。
第1回大会で日本を指揮することになった王貞治監督も悩まされたところで、海の物とも山の物ともわからない大会に選手を引っ張り出していいものか、という遠慮があったそうだ。イチロー(当時マリナーズ、現マーリンズ)が参戦し、リーダーシップを発揮してくれたために日本としては盛り上がり、成果も出たが、イチローの個人的な資質によるところ大で、組織的な対応のたまものとは言いがたいものがあった。
今回もメジャーで活躍する日本人投手の招集がならなかったように、メジャーではペナントレースを重視する風潮もなお強い。WBCが存続するかどうか微妙との報道がなされているが、存続するにしても、選手招集の困難さには変わりはないだろう。
■気掛かりな代表監督の立場の弱さ
こうしてみると、日本代表監督という立場の弱さが気になってくる。責任は重大だが、権限は乏しいポジションだ。領土を持たない領主ともいえようか。小久保監督がWBCで成果を挙げて続投するにせよ、新体制で五輪に臨むにせよ、課題は残ったままということになりそうだ。
さて「大谷ショック」を日本代表はどう克服していくのか。一番弱っているはずの権藤博投手コーチが意外なことを口にした。「1人の投手に1試合を任せて完投、完封ということが期待できるなら話は別だが、WBCはそうではない」
大谷を先発に立てても、球数の関係で四、五回で下ろさなければならないとなると、持てる力の半分も発揮してもらえないことになる。四、五回ならほぼゼロに抑えられそうな投手がいなくなるのは痛いには違いないが、致命的ではないというわけだ。
大谷離脱の報を受けて西武・牧田和久が語ったように、野球はチームスポーツで、みんなでカバーし合うところにプラスアルファの力が生まれる。「大谷がいなくなったことで、逆に結束力が生まれるかもしれない」という小久保監督の願い通りに事が運ぶことを期待したい。