打者とは失敗する職業 結果恐れずWBCに臨め
プロ野球がキャンプインし、3月31日開幕のペナントレースに向けたチームづくりが始まった。その前に、今年はもう一つのビッグイベントが控えている。同月6日に始まる第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)だ。
2006年の第1回大会を制した際、日本野球の代名詞として世界に浸透したのが「スモールベースボール」だった。単打や四死球で出塁した走者が盗塁や送りバントで得点圏に進み、後続が単打で返す。所属チームでは主軸を打つ打者たちが、日本の勝利という目標のために単打狙いに徹するさまは「つなぎの打撃」と称賛された。
ただし、つなごうと思ってつなげられるものでないのは、13年の第3回大会準決勝で日本がプエルトリコに1-3で敗れた事実からもわかる。そもそも国際大会では各国・地域から腕利きの投手が集まるため、連打が出にくい。バッテリーは致命的な被弾を避けるべく、長打になりにくい外角中心の配球になっていく。
■逆方向へ長打、国際大会のカギ握る
そこで力を発揮するのが、外角球を逆方向への長打にできる打者。例えば2死から一塁に出た走者を返そうとすれば、単打なら少なくとも2本要るが、長打なら1本で生還させられる。
流し打って長打にできる選手が多い国で思い浮かぶのがキューバだ。専門家の分析によると、日本の打者はおおむね流し打った際のスイングスピードが、引っ張った際のそれより落ちるのに対して、キューバの打者は両者の差がほとんどないという。コースにかかわらずフルスイングする「国際大会仕様」の打撃が根付いているのだ。
キューバに行ったときに関係者が話していた言葉が印象に残っている。「逆方向に本塁打を打たない選手は4番にはしない」。チームの柱だったオマール・リナレスにしても、確かに体から遠いコースでも迷わずフルスイングし、逆方向に本塁打を放っていた。
「キューバの至宝」と同じ打撃ができる打者の1番手として「日本の至宝」の大谷翔平(日本ハム)に期待していたが、右足首の故障で出場できなくなったのは実に残念だ。代わって存在感を発揮しうるのが、同じく外角球を強く流し打つことができる筒香嘉智(DeNA)。左方向への本塁打が増えた昨年のスイングをすればWBCでも期待できるだろう。
外角球を単打にしかできない選手ばかりなら、相手投手は随分楽になる。外に投げても一発があるとなれば投手はプレッシャーが増し、コントロールミスも出る。日本野球ここにあり、というところを見せる意味でも筒香らの大砲は当てにいく打撃はしないでほしい。
日本代表といえば、私も01年のワールドカップ(台北)と02年のアジア大会(韓国・釜山)、インターコンチネンタル杯(キューバ)でコーチを務めた。ヘッド兼打撃コーチだったインターコンチネンタル杯では一度、川崎宗則(現カブス)を思い切り叱ったことがある。当時の日本代表は実績の乏しい若手が中心で、アマチュアとの合同チーム。ダイエー(現ソフトバンク)でウエスタン・リーグの首位打者になって代表に乗り込んできた川崎は、代表チームでは自分が実力者の部類に入るという自信があったのか、態度が横柄だった。
そういう選手が一人でもいてはチームの士気に関わると思い、一喝した。そこから彼がどんな態度を取るか見ていると、ふてくされるどころか私とどんどん打ち解けていった。見どころのある青年だなと思った。
■向こう見ずなまでの積極性重要
川崎の長所に、相手チームに対して果敢にプレッシャーをかけにいく姿勢があった。常に「どうやって攻めてやろうか」と考えて立ち向かい、失敗したときのことなど全く考えない。その積極性は見上げたものだった。
向こう見ずなまでの積極性は、国際大会では特に重要だ。「打てなかったらどうしよう」という発想を持っている間は、まず結果を残せない。打率が3割なら7割は失敗なわけで、打者とは失敗する職業ともいえる。「打てなくて当たり前」と割り切って積極的に臨むことだ。
それは小久保監督にもいえること。チームを預かる立場としては、負けたときの理由を探したり、体裁を保とうとしたりと余計なことに考えが及ぶものだが、常に目の前の相手を倒すことに集中してほしい。
一昨年のプレミア12。韓国との準決勝で八回に送り出した則本昂大(楽天)が三者凡退に抑え、気をよくした小久保監督は九回もマウンドに送った。ところが、3連打と死球で1死も取れずに交代。松井裕樹(楽天)と増井浩俊(日本ハム)も火消しできず、この回4失点で3-0からよもやの逆転負けを喫した。
則本の急変で急きょ松井を投入したところに小久保監督の焦りがうかがえた。監督の動揺は一気に選手に波及する。松井と増井が「打たれたらどうしよう」と不安を抱えて登板した時点で、半ば負けは見えていた。
国内での代表戦となれば球場中が日本を応援する。期待の大きさゆえに、大声援が重圧に感じられてしまう。さらに、小久保は個別球団での指導経験なしに、いきなり代表の監督に就いた。経験不足であることを思えば慌てるのも無理からぬことかもしれない。
■指揮官はでんと、選手惑わず
ならば、なおさらWBCでは川崎のような積極性を持ってほしい。無死から走者が出たときは監督の腕の見せどころ。臆することなくスモールベースボールを活用すればいい。相手の内野手が深く守っていたら、2死からスクイズを敢行するのもいいだろう。「失敗したらどうしよう」と心配するあまり策を講じなければ、「あそこであいつが打たなかったから負けた」などと選手が責任をかぶせられることにもなる。
どんなときでも「責任は俺が取る」と、でんと構えていれば選手が惑うことはない。日本は2連覇を果たした09年の第2回以来の優勝を義務付けられた形だが、多くのチームが大リーグ級の選手を9人そろえるくらいの戦力はあり、日本が必ず勝つとは言い切れない。どのような結果になろうが、代表の面々には結果を恐れることなく戦ってもらいたいし、ファンの皆さんも日本の優勝を当然視せず、最高峰の勝負を楽しんでほしい。
(野球評論家)