中村や大久保ら移籍 25年目のJリーグどう変わる
サッカージャーナリスト 大住良之
鹿島と川崎が熱戦を繰り広げた元日のサッカー天皇杯決勝から2週間もたたないが、Jリーグ(J1)のクラブが早くも新シーズンに向けて動き出す。18クラブの先陣を切って甲府が10日にトレーニングを開始(9日の予定だったが、初日は降雪で中止になった)。他のクラブも続々とシーズンに向けたトレーニングに入る。
元日に大阪府吹田市の市立吹田スタジアムで天皇杯決勝を戦った鹿島と川崎も、そろって17日が始動日となる。鹿島はすぐにタイに遠征して招待大会を戦い、川崎は退任した風間八宏監督から代わった鬼木達監督の初指揮を迎える。
2月25日に25回目のシーズンの開幕を迎えるJリーグ。3年ぶりに「1シーズン制」が戻り、全34節の結果でチャンピオンが決まるというすっきりとした形になる。
■「移籍市場」近年になく活発
今季のJ1は、J2から昇格した3クラブを含む全18クラブのうち14クラブで監督が継続し、新指揮官によって率いられるのは川崎を入れてわずか4クラブ。いち早く始動した甲府には、一昨年柏で、そして昨年は新潟で指揮をとった吉田拓磨監督が就任。J2から昇格したC大阪には、2011年から4シーズン鳥栖で指揮を執り、その後2シーズン、母国の蔚山現代(韓国)を率いていた尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督が着任した。
新潟の監督に就任した三浦文丈監督は、昨年はJ3の長野を率いていた。「新人監督」は川崎の鬼木監督ただ一人。しかし風間前監督就任以前の10年から川崎のトップチームコーチを経験してきただけに、チームのことを知り尽くし、鬼木新監督下でも「風間路線」が継続されるのは間違いない。
まだ閉じられたわけではないが、今季の「移籍市場」は近年になく活発だった印象がある。
ジュニアユース時代から横浜Mで育ち、スコットランドのセルティックをはじめとした海外での活動期を除くプロ生活のすべてを、横浜Mのユニホームとともに過ごしてきたMF中村俊輔の磐田への移籍は大きな衝撃だった。イングランドのマンチェスター・シティーFCを中心とした英シティー・フットボール・グループが運営権を握った横浜Mのあり方に疑念を抱き、年俸の大幅ダウンを受け入れての移籍だった。
同グループから送り込まれたフランス人のモンバルエツ監督は3シーズン目を迎えるが、横浜MはDFファビオ(G大阪に移籍)、DF小林祐三(鳥栖に移籍)、MF兵藤慎剛(札幌に移籍)、そして中村と、昨年主力だった選手が4人もチームを離れた。さらには、エースのMF斎藤学も、欧州のクラブあるいはJリーグの他クラブへの移籍が濃厚になっている。新加入のポルトガル人ストライカー、FWウーゴ・ビエイラのスピードに期待したいところだ。
■FC東京や鹿島、戦力アップ
今季目につくのは、「大物ストライカー」の動きだ。
昨年神戸のFWレアンドロと「得点王(19ゴール)」の座を分け合った広島のFWピーター・ウタカは、まだ発表されていないが海外への移籍が決定的。昨年15得点のFW大久保嘉人が川崎からFC東京へ、14得点のFWジェイは磐田との再契約に至らなかった。
大宮で最多の11ゴールを記録したMF家長昭博は川崎に移籍。新潟最多の11ゴールのFWラファエル・シルバは浦和に移籍、神戸でレアンドロに次ぐ11ゴールのFWペドロ・ジュニオールは鹿島に移籍、仙台の得点王(11ゴール)、FWハモン・ロペスは柏に移った。
一挙に強化されたのはFC東京だ。ブラジル人FWムリキとの再契約は難しそうだが、オランダから日本代表左サイドバックのDF太田宏介が復帰し、GKには鳥栖からやはり日本代表の林彰洋を獲得、攻撃陣には大久保に加えスピード突破のFW永井謙佑(名古屋)を加えた。
ただ、このチームで手薄なボランチは名古屋から韓国人のMF河大成(ハ・デソン)が復帰したものの、MF高橋秀人が神戸に移籍し、問題が解決されたとはいえない。
FC東京と並んで大幅に戦力アップしたのが鹿島だ。神戸からFWペドロ・ジュニオール、新潟からMFレオ・シルバという大型補強に成功した。福岡から獲得したMF金森健志はスピード突破を誇り、攻撃陣の一角に食い込む可能性十分。また地味だが湘南から獲得した三竿雄斗はセンターバックも左サイドバックもこなす。
昨年12月のFIFA(国際サッカー連盟)クラブワールドカップでの活躍でMF柴崎岳とFW金崎夢生の欧州移籍がうわさされたが、もし2人がとどまるようであれば昨年とは比較にならないほど選手層が厚くなる。
Jリーグ随一のボランチ、レオ・シルバを獲得した鹿島ほど派手ではないが、浦和も着実に選手層を厚くした。FWにラファエル・シルバを獲得。昨年後半に手薄になったMFのアウトサイドには、日本代表も狙える逸材MF菊池大介を湘南から獲得した。リオ五輪代表のMF矢島慎也が岡山への、そしてMF長沢和輝が千葉への期限つき移籍から復帰するのも大きい。
■「世界的大物」の移籍、実現せず
ただ、昨年盛んにいわれた「世界的大物」の移籍は実現しなかった。
昨年、Jリーグは英動画配信大手のパフォームグループと今年から10年間総額で2100億円(年210億円)の新規放映権契約を結んだ。昨年までは年間約50億円だったから、4倍を超す契約になったのだが、実際にはこの契約のなかに映像の制作費が含まれ、それはパフォームグループに任せることにしたので、半分の年間約100億円の収入になるといわれている。「倍増」「50億円プラス」ということになる。
15年度のJリーグの収益は約133億円だったから、衝撃的といっていい増え方である。
「これで再び世界のトップクラスの選手がJリーグにくるようになるかもしれない」といわれた。
だが、増えた50億円を仮にJ1を中心に分配したとしても、1クラブ平均3億円にも満たない額なのである。年間の放映権収入が2400億円と言われるプレミアリーグ(イングランド)を筆頭に、いま世界のトップクラスの選手をそっくり抱えているといってよい欧州のビッグリーグはどこも年間1000億円規模の放映権収入を世界中からかき集めている。「年間100億円」ではとても太刀打ちできない。
それだけではない、ここ数年、中国のクラブが大金持ちのオーナーの出資で欧州での評価の倍以上の額をつけて世界的なプレーヤーを獲得する傾向が強くなっている。今年もブラジル代表MFオスカルがイングランドのチェルシーから上海上港へ87億円で移籍するなど、その動きは加速している。中国のクラブはこうした移籍を放映権収入で賄っているわけではないが、それでも中国スーパーリーグの放映権収入は年間約250億円といわれている。Jリーグの2.5倍である。
新契約で放映権収入が倍増したとはいえ、世界の移籍市場に乗り出せるような分配金がクラブに渡るわけではない。今季は、大量移籍したストライカーたちがそれぞれの新チームにどんな化学変化をもたらし、Jリーグのサッカーを活性化させるか、それを楽しみに見ることにしよう。