ハリル監督、W杯出場へ日本の長所鍛え抜く
――昨年は大変な苦労をした。
「簡単なシーズンではなかった。特に海外組が体調不十分な状態で合流することが多かった9月、10月は私の経験、自信、能力をフル活用しても解決するのは難しかった」
「最終予選初戦でアラブ首長国連邦(UAE)に敗れ、予選全体の戦いが難しくなった状況に変わりはない。審判が正確な笛を吹いてくれていれば、負けてはいなかったのだが。11月のサウジアラビア戦に勝ち、首位サウジと勝ち点で並んで16年は喜びで締めくくれたが、ライバル国とレベルは拮抗しており、残りの試合も厳しい戦いは続くと思っている」
■「本当の戦いへできる限り準備」
――自国内でプレーする選手で固めた対戦相手は一つのクラブチームのようにプレーする。
「サウジやUAEには時間をかけて準備して試合に臨めるアドバンテージがある。海外組が多い日本は彼らが所属チームで出場機会に恵まれず、その影響で代表でハイレベルなプレーができない問題を抱えている。国内組はメンタル面でもフィジカル面でも(最終予選を戦うのに)まだ十分な準備ができていない」
「だから海外組には先発の座をつかんでくれ、出番が増えそうな移籍も選択肢に加えろと助言している。本田(ACミラン)にも伝えた。代表に入りたければ(クラブでの)プレーの回数だと。代表は選手全員のものであり、プライベートなチームではないと」
――今年の日程を見るとUAE、イラク、サウジとのアウェー戦が控えている。
「本当の戦いが始まる。できる限りの準備をして臨む。ものすごい環境下で戦うことになるが、審判には正確な笛を吹いてくれと言いたい。たった一つの笛で試合が難しくなる経験を予選前半でしただけに」
――昨年10月、追加タイムのゴールで勝ったイラク戦、守備的に戦って引き分けたオーストラリア戦の後には激しい批判にさらされた。
「オーストラリア戦後の批判は限度を超えていたと思う。フットボールに対する理解の仕方が私とかなり違うことも分かった。私を批判するのにたいして重要でない統計を持ち出す者もいた」
「例えば、ボール所有率。日本の数値がオーストラリアやサウジより劣ったのは確かだが、それと"プレーコントロール"は別の話だ。オーストラリア戦でいえば、我々はわざと相手にボールを持たせ、攻撃のトライはすべて消す守備をした。それがあの試合では勝つのに一番適したタクティクスだったからだ」
――見かけと違い、試合を制御していたのはあくまで日本だったと。
「プレーコントロールという言葉を、実は日本ではやらせたいと思っている(笑)。守備でいえば、高い位置からボールを取りにいくのか、引いて守るかは戦う相手によっても状況によっても変わる。オーストラリア戦はブロックをつくって守ったが、サウジ戦は高い位置からプレスをかけに行った。どちらも目的は試合をコントロールすることだった」
「タクティクスを選択するときに最も重要な要素は選手のフィジカルコンディションだ。コンディションが悪い状態でハイプレスなどかけられない。10月のオーストラリア戦がそうだった。11月のサウジ戦はコンディションが良かったから違うアプローチができた。10月と11月で選手の状態は同じではないのだ。サウジ戦は本番2日前の練習で選手、特にFWとMFの状態が把握でき、あのようなタクティクスを採用できた」
――日本では常に日本が攻めまくる試合を期待する人が多いのかもしれない。
「同じB組にいる、対戦チームのレベルが上がっていることを直視すべきだ。真実は時に受け入れがたいものであっても。ボールを保持してFCバルセロナのようにプレーしろという人がいるが、私はそれを目指してはいない。自分たちのプレー、アイデンティティーを大切にしたいと思っている。我々の長所を使ってチームを発展させたいと思っている。代表チームならなおさらだろう」
■「もっと速く、もっと激しく」
――今後、チームの改善点は何か。
「(東アジア選手権を除く、代表の20試合から抽出した)各種のデータを基に話せば、日本代表の1試合平均の選手全員の走行距離は115キロくらい。これを120キロくらいにしたい。チーム全体の1試合平均のスプリント回数は181回。これは230から250回に引き上げたいと思う。スプリントの速さ自体を32キロから34キロまで持ってきたい」
「もちろん、ただ走ればいいというものではなく、走りの中身やリズムの変化は重要。日本の選手はパワーで勝負するタイプではないし、デュエル(1対1の戦い)の激しさも足りない。(それらを補うために)コレクティブ(集団的)なプレーが必要になる」
――決定力不足は相変わらずだ。
「1試合平均のシュート数22本はいいが、枠内シュートが42%というのは低い。これは50%を超えるようにしたい。1試合平均で23.5本のクロスを上げたが、中の選手と合った確率は22%という精度も問題だ」
「フランスやアルゼンチンと戦うと、シュートとクロスの数はかなり減る。ということは一つ一つの精度を上げないとゴールは奪えない。私が統計を重視するのは最終予選を突破した後(世界の舞台で勝つこと)も考えているからだ」
――昨年はつまらない失点も多かった。
「デュエルの厳しさは引き続き求めていく。Jリーグを見ているとボールを持つ選手にシャンパンを飲む時間を与えている。世界のサッカーは個人がボールを持つ時間をどんどん削る方向に向かっているというのに」
「ただし、ボールを奪うのも反則無しが前提になる。5人で1人を囲んでPKを与えるようなことをすると高い代償を払うことになる。小さなミスが失点に直結するのがハイレベルな戦いだ」
W杯ロシア大会アジア最終予選は全体の半分を終えたところ。3月に再開し9月で終了、上位2チームが無条件で本大会の出場権を得る。3位になるとA組3位との地域間プレーオフに回り、それに勝っても今度は北中米カリブ海第4代表との大陸間プレーオフが待つ長い航海になる。
最終予選の日程を見ると、アウェー戦が多いこと自体は、欧州を主戦場とする選手が多い日本にむしろ追い風になる可能性もある。欧州から中東への移動は日本に戻って試合をするより、むしろ楽かもしれない。
心配なのは8月末からのオーストラリア、サウジアラビアとの連戦か。通常なら欧州はシーズン開幕直前か直後にあたり、選手は試合勘などに問題を抱えていることが考えられる。日本で戦った後にサウジに飛ぶ行程もきつそう。国内組も夏場の連戦でコンディションが良いとは思えない。オーストラリア戦で6大会連続出場を決めてしまうのがベストなのだが。