競泳・木村、全身全霊 「超」前向き4連続メダル
競泳男子100メートル自由形(視覚障害S11)で木村敬一(東京ガス)が3位に入り、4日連続となるメダルを獲得した。
レース前のターン側のプールサイド。中1の時から木村を指導した寺西真人コーチは、目の見えない木村の体をたたいてターンのタイミングを教えるタッピング棒を、我が子のように何度もなでながら、素振りを繰り返した。
まさにその伝家の宝刀の威力がいかんなく発揮された。レースは25メートルあたりから、この日世界記録を更新する泳ぎを見せたブラッドリー・スナイダー(米国)が頭ひとつ抜け出し、追う木村と南アフリカ、中国の3選手が横一線でターンに突入。タイムだけ見ると、木村は両選手に遅れた4位で折り返した。
ところが浮き上がった時点では木村が2位に。南ア、中国の選手はタッピングに失敗、壁から遠いところでターンをしたため、壁の蹴り方が弱かった。これに対し、勝負をかけた、ぎりぎりひき付けたタッピングで木村は強く壁を蹴れた。
その後中国選手に抜かれたが最後まで粘って3位。寺西コーチは「いい仕事ができたから、メダルにつながったと思う。でもラッキーだったとしてください」と照れ笑い。木村の泳ぎを長年見続けていたがゆえ、ここぞのタイミングを見抜けたのだ。
もちろん、金メダルを期待された前日の100メートルバタフライで、2位に終わったショックを振り払った木村の精神力も見逃せない。午前中の予選は7位通過。自己ベストに3秒以上及ばない1分2秒85だった。でも木村は「(昨日の結果を)超ひきずっていたので、あんな感じで予選をぎりぎりで通してもらって助かりました」と前向きにとらえた。
さらに決勝が、機器のトラブルのために40分ほど遅れてのスタートとなった。これも「これで俺は回復できるぜ、と思いながら待ってました」。「超」がつくほどのポジティブシンキングで、一気にタイムをあげて59秒63。自己ベストまであと0秒15と迫った。
レース後は疲労困憊(こんぱい)で立ち上がれず、コーチに肩を借りてよろよろと歩いた。それでも「明日、力が残っていたらがんばります」。最後の200メートル個人メドレーで5日連続のメダルとなれば、日本のパラリンピック史に残る快挙だろう。
(摂待卓)