新生ショットで いざ 車いすテニス・上地結衣
旗手担う緊張感も味方に
車いすテニス男子シングルスでパラリンピック2連覇中の国枝慎吾が、「その活躍が刺激になっている」と評する選手が、同種目女子の上地結衣(エイベックス)だ。2014年にシングルスの3つのグランドスラムのうち2つを獲得、もう1つも準優勝。日本の女子として初めて世界ランク1位になった。
ただ15年以降、ダブルスでは5回勝っているが、シングルスでは一度も優勝がない。これは「グランドスラムでは負けるかもしれないが、リオを見据えたプレースタイルを考えた」結果だ。
それは、バックハンドのトップスピン。新しいショットに挑戦したがゆえの無冠に悔いはない。すべては、リオでの金メダルに向けた深謀遠慮である。
女子では、バックのスライスがうまいトップ選手が多く、スライスでのラリーを続けて勝機を探る試合になりがちだ。そこで「トップスピンでスライスを打ち返せれば、自分の展開に持ち込める」。スピンをかけてはねるボールにすると、車いす選手は健常者と違って打点が低く、高い球は苦手なので、返球が甘くなる。そこを得意のフォアで仕留める。
取り組み始めたのは15年2月から。当初はスライスかスピンかの選択に迷いもあった。だが、今年6月、BNPパリバオープンのシングルスで優勝した際のプレーは「バックハンドのトップスピンをすごくいいタイミングやいい選択で打てていた」。
女子のトップ10すべてが参加した大会での手応えは格別だ。コーチの千川理光も「ここはスピン、ここはスライスという考えが僕と一致していた。本当に良かった」と評価する。
前回ロンドン・パラに参加したときは高校3年生。「10代で何もわからず」シングルス、ダブルスとも準々決勝で敗退。テニスは辞めようと思っていたが、盛り上がりを見せた大会で、「同じ代表選手の目線で日本選手を応援し、その努力のストーリーを共有したい」と翻意した。
だから今回、選手団の旗手という大役はうってつけ。「光栄で緊張もあるが、それを味方につけて戦いたい」。プレーで選手を鼓舞する旗を振り続ける。=敬称略
(摂待卓)