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米で特許 再現成功で「常温核融合」、再評価が加速

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日経BPクリーンテック研究所

仙台市太白区にある三神峯(みかみね)公園は、500本を超えるサクラの名所として知られる。「東北大学電子光理学研究センター」は、同公園に隣接した緑の中にある。2つの加速器を備えるなど、原子核物理の研究センターとして50年の歴史を刻んでいる。

わずか数百度で核反応が進む

2015年4月、同センターに「凝縮系核反応共同研究部門」が新設された。「凝縮集系核反応」とは、金属内のように原子や電子が多数、集積した状態で、元素が変換する現象を指す。

今の物理学の常識では、元素を持続的に変換させるには、1億℃以上のプラズマ状態の反応場が必要とされる。フランスや日本などは、国際協力の下で「ITER(国際熱核融合実験炉)」の建設を進めている。巨大なコイルによって、「1億℃」を磁場で閉じ込めておく手法だが、当初の目標に比べ、実用化は大幅に遅れている。

凝縮集系核反応であれば、常温から数百℃という低温で元素が融合し、核種が変換する。東北大学電子光理学研究センターに建った、凝縮集系核反応共同研究部門の真新しい建屋に入ると、断熱材で覆われた実験装置がある。

核反応が進行するチャンバー(容器)は円筒形。金属製なので中は見えないが、センサーによって温度を計測している。「実験を始めてまだ1年ほどですが、順調に熱が出ています」。同研究部門の岩村康弘特任教授は、温度を記録したノートを見ながらこう話す。

三菱重工の研究者が東北大に移籍

かつて、凝縮集系核反応は「常温核融合(コールドフュージョン)」と呼ばれた。1989年3月に米ユタ大学で、二人の研究者がこの現象を発表し、世界的に脚光を浴びた。だが、ユタ大学での報告を受け、各国で一斉に追試が行われた結果、米欧の主要研究機関が1989年末までに否定的な見解を発表、日本でも経済産業省が立ち上げた検証プロジェクトの報告書で、1993年に「過剰熱を実証できない」との見解を示した。

しかし、その可能性を信じる一部の研究者たちが地道に研究を続け、徐々にこの現象の再現性が高まってきた。2010年頃から、米国やイタリア、イスラエルなどに、エネルギー利用を目的としたベンチャー企業が次々と生まれている。日本では凝縮集系核反応、米国では「低エネルギー核反応」という呼び名で、再評価する動きが出てきた。

実は、東北大学に新設された凝縮系核反応共同研究部門は、クリーンエネルギー分野のベンチャーや研究室などに投資するクリーンプラネット(東京・港)が研究資金を出し、東北大学が施設や人材を提供するという形で2015年4月に発足した。

「核融合の際に発生する膨大なエネルギーを安定的に、安全かつ低コストで取り出せる道が見えてきたことで、欧米を中心に開発競争が活発化している。日本の研究者は、これまでこの分野を主導してきた実績がある。実用化に向け、国内に蓄積してきた英知を結集すべき」。クリーンプラネットの吉野英樹社長はこう考え、東北大学に資金を投じた。

東北大学・凝縮系核反応研究部門の岩村特任教授と伊藤岳彦客員准教授は、ともに三菱重工業で凝縮集系核反応の研究に携わり、今回の部門新設を機に東北大学に移籍した。三菱重工は、放射性廃棄物を無害化する技術として、「新元素変換」という名称で地道に研究に取り組み、選択的な元素変換に成功するなど、世界的な成果を挙げてきた。

わずか1年で「過剰熱」を観測

岩村特任教授は、東北大学への移籍を機に、研究のターゲットを放射性廃棄物の無害化から、「熱の発生」に切り替えた。凝縮集系核反応の応用分野には、発生した熱をエネルギー源に活用する方向性と、核変換によって放射性廃棄物の無害化や希少元素の生成を目指す方向性がある。現在、クリーンプラネットなど多くの企業、ベンチャーは、実用化した場合の市場規模が桁違いに大きい、エネルギー源の利用を優先して研究を進めている。

実は「熱の発生」に関しても、日本の研究者が世界的な研究成果を挙げてきた。先駆者は北海道大学の研究者だった水野忠彦博士と大阪大学の荒田吉明名誉教授。現在、国内では、この二人の研究者が見いだした熱発生の手法を軸に実用化研究が活発化している。

クリーンプラネットは、水野博士が設立した水素技術応用開発(札幌市)にも出資し、グループ企業にしている。東北大学の岩村特任教授らは、まず、水野博士の考案した手法の再現実験に取り組み、順調に「過剰熱」を観測している。

その手法とは、以下のような仕組みだ。円筒形のチャンバー内にワイヤー状のパラジウム電極を2つ配置し、その周囲をニッケル製メッシュで囲む。この状態で、電極に高電圧をかけて放電処理した後、100~200℃で加熱(ベーキング)処理する。この結果、パラジウムワイヤーの表面は、パラジウムとニッケルによるナノスケールの構造を持った膜で覆われることになる。

こうしてパラジウム表面を活性化処理した後、チャンバー内を真空にし、ヒーターで数百度まで加熱した状態で、重水素ガスを高圧(300~170パスカル)で圧入し、パラジウムと重水素を十分に接触させる。すると、ヒーターで入力した以上の「過剰熱」が観測された。活性化処理せずに同じ装置と条件で重水素ガスを圧入した場合、過剰熱は観測されず、その差は70~100℃程度になるという。

「実験開始から1年足らずで、ここまで安定的に熱が出るとは、予想以上の成果。これまで三菱重工で蓄積してきた、再現性の高い元素変換の知見を熱発生にも応用できる」。岩村特任教授の表情は明るい。

ナノ構造が核反応を促進

一方、大阪大学の荒田名誉教授の手法をベースに熱発生の研究を続けているのが、技術系シンクタンクのテクノバ(東京・千代田)だ。同社には、アイシン精機トヨタ自動車が出資している。テクノバは、大阪大学の高橋亮人名誉教授と神戸大学の北村晃名誉教授をアドバイザーとして迎え、神戸大学と共同で研究を続けている。

荒田名誉教授は2008年5月、報道機関を前に大阪大学で公開実験を行った。その際の手法は、酸化ジルコニウム・パラジウム合金を格子状のナノ構造にし、その構造内に重水素ガスを吹き込むと、常温で過剰熱とヘリウムが発生する、というものだった。テクノバチームは、荒田方式をベースにニッケルと銅ベースのナノ粒子に軽水素を吹き込み、300℃程度に加熱することで1カ月以上の長期間、過剰熱を発生させることに成功している。

1989年に米ユタ大学で、常温核融合が耳目を集めた際、その手法は、パラジウムの電極を重水素の溶液中で電解するというものだった。その後の研究で、電解方式のほかに、重水素ガスを圧入する方法が見いだされ、再現性が高まっている。現在では、電解系よりもガス系の方が主流になっている。東北大とクリーンプラネットによる水野方式、テクノバと神戸大の荒田方式も、いずれもガス系の手法を発展させたものだ。

また、「パラジウムやニッケル、銅などの試料表面のナノ構造が、核反応を促し、熱発生の大きなカギを握ることが分かってきた」(東北大学の岩村教授)。

定性的には100%の再現性を確立したなか、今後の研究ターゲットは、「発生する熱をいかに増やすか、そして重水素とパラジウムという高価な材料でなく、軽水素とニッケルなどよりコストの安い材料による反応系でいかに熱を発生させるかがポイント」と、クリーンプラネットの吉野英樹社長は話す。

米国で初めて特許が成立

2016年10月2~7日、「第20回凝縮集系核科学国際会議(ICCF20)」が仙台市で開かれる。ホストは、新設した東北大学の凝縮系核反応研究部門が担う。同会議は、1~2年おきに開かれ、世界から凝縮集系核反応の研究者が200人以上集まり、最新の成果を発表する。ここでも日本の2つのグループによる研究成果が大きな目玉になりそうだ。

ICCF20の準備は着々と進んでおり、「欧米のほか、中国、ロシアなど、約30か国から研究者が参加する予定で、企業からの参加者も増えそう」(東北大学の岩村特任教授)。ICCFは、2012年に開かれた第17回会議の頃から企業に所属する研究者の参加が増え始め、2013年7月の第18回会議では、4割以上が凝縮集系核反応を利用した「熱出力装置」の開発を進める企業などからの参加者だった。

クリーンプラネットの吉野社長は、「凝縮集系核反応に取り組む企業は、表に出ているだけでも75社に達し、その中には、電機や自動車の大手が含まれる。こうした企業の動きに押される形で、米国の政策当局は、凝縮集系核反応を産業政策上の重要な技術として、明確に位置づけ始めた」と見ている。

米国特許庁は2015年11月、凝縮集系核反応に関する米研究者からの特許申請を初めて受理し、特許として成立させた。これまでは、現在の物理学では理論的に説明できない現象に関して、特許は認めていなかった。特許が成立した技術名は、「重水素とナノサイズの金属の加圧による過剰エンタルピー」で、ここでもナノ構造の金属加工が技術上のポイントになっている。

日本とイタリアがリード

米国議会は2016年5月、凝縮集系核反応の現状を国家安全保障の観点から評価するよう、国防省に対して要請しており、9月には報告書が出る予定だ。この要請に際し、米議会の委員会は、「仮に凝縮集系核反応が実用に移行した場合、革命的なエネルギー生産と蓄エネルギーの技術になる」とし、「現在、日本とイタリアが主導しており、ロシア、中国、イスラエル、インドが開発資源を投入しつつある」との認識を示している。

「常温核融合」から「凝縮集系核反応」に名前を変えても、依然としてこれらの研究分野を"似非科学"と見る研究者は多い。そうした見方の根底には、現在の物理学で説明できないという弱みがある。特に低温での核融合反応に際し、陽子間に働く反発力(クーロン斥力)をいかに克服しているのか、粒子や放射線を出さない核反応が可能なのか、という問いに応えられる新理論が構築できていないのが実態だ。

とはいえ、説明できる理論がまったく見えないわけではない。2つの元素間の反応ではなく、複数の元素が同時に関与して起こる「多体反応」による現象であることは、多くの理論研究者の共通認識になっている。金属内で電子や陽子が密集している中で、何らかの原理でクーロン斥力が遮蔽され、触媒的な効果を生んでいることなどが想像されている。

東北大学では、熱発生の再現実験と並行して、こうした理論解明も進める方針だ。こうして、理論検討が進み、新しい物理理論が構築されれば、「革命的なエネルギー生産」の実用化はさらに早まりそうだ。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

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