サッカー賭博、八百長疑惑はいたちごっこ
対象、他の競技にも拡大
洋の東西を問わず、スポーツと賭け事は切り離せない。困ったことに、そこに八百長という深刻な問題がついてくる。世界中のサッカーの試合がブックメーカー(賭け会社)によって賭けの対象とされ、オンラインで簡単に賭けを楽しめるいま、監視の目を張り巡らせても八百長事件が絶えていない。
老舗ブックメーカーのウィリアム・ヒルは世界の100を超えるリーグの1000試合以上を扱っている。基本はシンプルな勝敗の賭け。「勝ち・引き分け・負け」を当てるものに限らず、ブックメーカーがハンディを付けて「勝ち・負け」に賭けるものもある。「最初にレッドカードを受けるのは誰か」「最初にCKを得るのはどちらのチームか」など、あらゆることが賭けになる。
競馬やtoto(サッカーくじ)と違い、試合が始まっても賭けを締め切らない。試合中に刻々と変わるオッズをにらみながら賭け続けるライブベッティングが隆盛だ。
たとえば「合計点が2点より上か下か」の賭けでは得点が決まれば当然、オッズは下がる。しかし、残り時間が短くなれば的中しやすくなるので堅めに買う手もある。カネが絡むことで、より試合に熱狂できるからだろう、ライブベッティングが好まれる。
Jリーグも世界の170のブックメーカーに賭けの対象とされていると言われる。それゆえ試合が不正に操作される危険性を秘めている。
Jリーグは2010年に世界の賭博市場を監視するスイスのモニタリング会社、EWSと契約。14年には広島―川崎戦で賭け金の動きに異常があったため、試合後、EWSから「八百長の可能性がある」と警報が届き、騒ぎになった。Jリーグが両チームの社長、強化責任者、監督、選手らから聞き取り調査をし、「不正なし」と判断した。
EWSは昨年、日本で開催したセミナーにクラブ関係者、審判、警察関係者らを集め、不正行為を持ちかけてくるフィクサーの手口などを説いた。
「メディアから『選手がフィクサーと接触している情報をつかんだ。あす記事にします』という報告があったら、どう対応しますか」「あなたがフィクサーなら選手にいかに働きかけますか」。そう問いかけることで当事者に八百長を現実的な問題として意識させ、注意喚起した。
Jリーグには国際刑事警察機構から毎週、世界の八百長事件のリポートが届く。11年に韓国で大量の逮捕者が出たのに続き、13年にはイングランドの下部リーグやベトナムで八百長が発覚した。Jリーグの藤村昇司特命担当部長によると「モニタリング会社の監視が効いているのか、一時と比べて件数は減ったが、報告がゼロの週はない」。
服役を繰り返した後、捜査に協力している元フィクサーのウィルソン・ペルマル氏はテレビインタビューでこう話している。「不正を仕掛けたのは80回から100回。成功率は70~80%。世界中の試合を見て、狙いやすいリーグを探した」
賭けの対象はバドミントン、バレーボール、ハンドボールなどの五輪競技にも拡大、クリケットやテニスでも八百長騒動が起き、テニスでは今年、賭けにかかわった審判が処分された。「八百長はスポーツの根幹に関わる問題だが、刑が軽く、大物フィクサーが短い服役で出所している」と藤村氏。犯罪組織にとってリスクが小さく、稼ぎやすいので撲滅が難しい。
かつて本田圭佑が所属したVVVフェンロ(オランダ)の13年の試合で不正があったとされたのはトルコ・キャンプ中の練習試合。テニスでも八百長が疑われるのは四大大会などより、下部ツアーが大半だ。この手の試合は監視が緩いため、八百長を仕掛けやすいらしい。他にも疑惑を持たれた練習試合がある。
ブックメーカーがスポンサーとなり運営を資金的に支えるケースも増えた。イングランドでは、betwayが国際テニス連盟、サッカーのウェストハムのスポンサーであるほか、bet365がストーク、申博138がワトフォードなど、複数のサッカーチームのユニホームの胸にブックメーカーが露出。ウィリアム・ヒルはテニスの全豪オープンを支え、米プロバスケットボール(NBA)も契約に興味を持っているとされる。
11年のEWSの報告では「世界のサッカー産業の売り上げは3000億ドル、サッカー賭博の売り上げは3500億~5000億ドル」。賭けを楽しむ者が世界中にあふれているから、残念なことに不正を仕掛ける者も絶えない。
(吉田誠一)