ワイシャツ、関西は「カッターシャツ」?(謎解きクルーズ)
運動着が出発点、語源は「勝った」 学生服の下に着る定番
このところ真夏のような暑い日が続く。軽装で仕事をするクールビズが定着したこともあって、街にはワイシャツ姿のサラリーマンが目立ってきた。この「ワイシャツ」、関西では「カッターシャツ」と呼ぶ人が多い。その由来を調べると意外なものに行き着いた。
「カッターシャツ」は広辞苑にも載っている。「襟と袖口が縫いつけられたシャツ。もとは運動着だが、今はワイシャツと区別なく用いる」とあり「和製語。『勝った』のもじり」との注記がある。はて、運動着? 勝った?。
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調べてみると大阪市に本社を置くスポーツ用品大手、ミズノに行き着いた。同社が1918年、テニスやハイキングなどのアウトドア用に販売したシャツの商品名が「カッターシャツ」だったのだ。
特徴は襟と袖が付いていた点。それまで日本のスポーツシャツは襟無しが一般的だったという。テニスやゴルフ、ラグビーなど欧州発祥のスポーツは本来、格式を重んじて襟付きシャツでプレーするのがマナーである点に同社が着目し、新たなジャンルとして売り出したわけだ。
ミズノによると、この商品名を考えたのは創業者の水野利八。水野は野球観戦が大好きで球場によく足を運んだ。どんな名前で売り出そうかと悩んでいた水野は「勝った、勝った」とひいきのチームの勝利を喜ぶ観客を見て「カッター(勝った)シャツ」を思いついたという。確かに縁起はいい。
この「カッターシャツ」がなぜか次第にビジネスの場で着るシャツも指すようになっていく。大阪文化服装学院(大阪市淀川区)でファッションビジネスなどを教える榎原寛学科長は「大正期の日本では襟付きのシャツでスポーツをする習慣は無かった。襟付きシャツの格式張ったイメージがフォーマルな場で着るシャツと重なっていったのでは」と説明する。
今では「ワイシャツと同じ意味。60年以上店を構えているが、客は皆『カッターシャツ』と呼ぶ」。大阪・梅田の紳士服店、司屋はそう話す。ちなみに「ワイシャツ」は「ホワイトシャツ」がなまったとされる言葉で、カッターシャツと同様の和製英語だ。
一方「『カッターシャツ』と『ワイシャツ』は使い分けられている」との説もある。
「制服の下に着るのがカッターシャツ。スーツに合わせるシャツとは違い、ワイシャツとは呼ばない」と話すのはタカセ学生服店の高瀬実会長。大阪市旭区の千林商店街にある同店は約60年前、かつて紳士服などと一緒に売られていた学生服を専門に扱い始めた学生服店の草分けという。
京都などではカフス(袖口)付きなど仕立てたシャツを指して「カッターシャツ」と呼ぶことがあるとされる。
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ただし近年は「この呼び方を使うことが減ってきた」との声も聞こえてきた。
大阪・船場の紳士服店、ロマンクラブによると「最近は業界では『ドレスシャツ』などと呼ぶ人が多い」。男性用衣料の全国チェーン店をのぞくと、確かに「ドレスシャツ」「メンズシャツ」の表示はあるが「カッターシャツ」「ワイシャツ」は見当たらなかった。
「ドレスシャツ」は、この種のシャツの海外での一般的な名称だ。榎原学科長は「セレクトショップなどが『ドレスシャツ』などと呼んでおり、若い世代を中心に広がっている」と説明する。
榎原学科長はさらに「クールビズの普及も影響しているのでは」とも指摘する。
クールビズではポロシャツなども着用を許される場合がある。職場で着る「フォーマルなシャツ」の概念が変わりつつあるのに合わせ、「カッターシャツ」の出番も徐々に少なくなっているようだ。
とはいえ「うちでスーツをオーダーするお得意さんは今でも『カッターシャツ』と呼んでいるよ」(司屋)との意見も根強い。関西で運動着として生まれ、意味が拡大したカッターシャツ。言葉として熟成し、ビンテージになりつつあるのかもしれない。
(シニア・エディター 泉延喜)