日本人作曲家に力注ぐ 関西フィル首席指揮者 藤岡幸夫さん
就任16年目 日本一の楽団目指す
関西フィルハーモニー管弦楽団の指揮者に就いて16年目を迎えた藤岡幸夫。4、5年で指揮者が入れ替わる現在のクラシック界では異例だ。「楽団を日本一にするのが自分のライフワーク。まだ道半ば」と言い切る。
多くの埋もれた作品に光当てる
大阪・弁天町、関西フィルの練習場。指揮棒を下げ、一息ついた藤岡に楽団員から次々と質問が飛ぶ。「今のリズムって早過ぎませんでしたか」「この部分の解釈がちょっと迷うんですけど」。それに対し一つ一つ丁寧に答えていく藤岡。どんな有名な指揮者が客演で来ても、おそらく同じ光景が見られるはずだ。遠慮せず納得いくまで突き詰める。関西フィルの伝統だ。
「最初は自分も戸惑いました。でもね、結局は一番合っているんです」と藤岡。しばしば熱くなり、激しい口論が起きる場合もある。指揮者と楽団員は時に互いを"天敵"とみなす。音楽性の違いから、相いれない部分は必ず生じるからだ。「どんなに激しく言い合っても絶対に根に持たないようにしてきた。だからこれだけ長くやってこられたんでしょう」
そこには程よい緊張感と距離感がある。「関西フィルと自分は夫婦のようなもの」という。他人同士が縁あって一緒になった。支え合う不可欠な存在だが、その気になれば"離婚"もできる。「今のところ、関係はいたって良好です」とほほ笑む。
今年、1つの成果が出た。長年の目標だったテレビ番組へのレギュラー出演だ。BSジャパン「エンター・ザ・ミュージック」(毎週火曜午後11時放送)に、司会者・指揮者として関西フィルと毎週登場している。
「お互い、ますます離れられなくなった」。年間40~50回も関西フィルを指揮する。一般的な指揮者は同じ楽団を20回も指揮すれば多い方だ。
指揮者として大事にしてきたテーマが日本人作曲家の作品。4月、大阪のプロ4楽団が共演した「大阪4大オーケストラの響演」では、他の3楽団が西洋の作曲家の作品を演奏したのに対し、藤岡は黛敏郎のバレエ音楽「BUGAKU(舞楽)」を選んだ。10月30日の定期演奏会では吉松隆のサクソフォン協奏曲「サイバーバード」をメーンに据える。
クラシックでは18~19世紀の欧州の古典派やロマン派の作曲家に人気が集中する。集客面を考えると日本人の現代作曲家を取り上げるのは冒険だ。しかし藤岡は「楽団のカラーになりつつある。埋もれている数多くの作品に光を当てたい」と揺るがない。
東京生まれの東京育ちだが、関西への愛着は強い。母も妻も関西出身。楽団の主要スポンサーであるダイキン工業の井上礼之会長を人生の師と仰ぎ、井上の著作を肌身離さず持ち歩く。これからの目標は「全国どこで演奏してもチケットを完売できるオーケストラになること」。どんな楽団であれ、道のりは険しい。「もちろん、僕の人生をかけた課題ですよ。10年後、20年後を見ていてください」と目を輝かせる。
(大阪・文化担当 田村広済)
1962年東京生まれ。小学校4年生で指揮者になる夢を抱く。慶応義塾大学文学部卒。日本フィル指揮研究員を経て90年に英国王立ノーザン音楽大学指揮科に入学。渡英中にはハンガリー出身の名指揮者、ゲオルク・ショルティのアシスタントを務め、薫陶を受けた。英マンチェスター室内管弦楽団首席指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団指揮者などを経て、2000年に関西フィル正指揮者、07年から首席指揮者。
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