現代アートと溶け合う 世界遺産・国宝の社寺
今秋、関西にある世界遺産や国宝で現代アートの展示会が相次ぐ。重厚な歴史をたたえた建造物や宝物と、先鋭的なアート作品が共鳴し、美術館とはひと味違う魅力を発信する。通常非公開の場所での展示もあり、歴史ファンもアートファンも楽しめる内容だ。
和歌山県高野町にある世界遺産、高野山真言宗総本山金剛峯寺。空海による開創1200年を記念した特別企画展「いのちの交響~空海の地で会う日・韓現代美術」が11月3日まで、同寺と近隣の「開創1200年ギャラリー」で開催中だ。
普段は貴賓室として使われる非公開の奥殿に神戸市を拠点にする現代作家、榎忠(えのき・ちゅう)の作品「RPM-1200」が登場した。鉄工所で廃材となった金属部品を積み上げたオブジェで、鉄の冷たい肌合いが、奥殿の神秘的な空間に溶け込む。これまで様々な展示会場で現地制作してきたシリーズだが、真言密教の聖地でみる作品は洗練された塔頭(たっちゅう)にも見えてくる。
榎自身が奥殿での展示を強く希望した。銃弾の薬きょうを使った作品なども展示しており、「人間の文明や戦争を思わせる作品が、(高野山という)特別な空間で美術館などとは違って見えるのでは」と話す。
榎ら日韓の現代作家5組による約20作品が並ぶ。柴田英昭と松永和也による美術家ユニット「淀川テクニック」は、大阪の淀川や鳥取の砂丘で韓国などから流れてきたごみや流木を使って鳥の群れを作った。韓国の徐庸宣(ソ・ヨンソン)は高野杉を使った木彫の仏など素朴で力強い作品を並べる。
添田隆昭・高野山真言宗宗務総長は「弘法大師はモノにも命があると説いたが、廃材になったモノに命を吹き込む今回の作品と通ずる部分は多い。宗教も現代美術も分かりづらいかもしれないが、触れた人の心には何かが沈殿する。そんな力を発見してほしい」と期待する。
京都市北区の世界遺産、上賀茂神社と下鴨神社。そろって21年に一度の式年遷宮を迎える今年、現代日本画家の大舩真言(おおふね・まこと)が両神社の境内で作品を展示する。10月3日に京都市内の約40会場で開かれる「ニュイ・ブランシュ(白夜祭)KYOTO2015」の関連展示だ。
上賀茂神社には青を基調とした画面に光と闇のあわいを表現した「VOID」(10月4日)、下鴨神社には対照的に鮮やかな赤を基調とする「Raw」(同3~11日)を展示する。また世界遺産や国宝には指定されていないが、歴史的な数寄屋建築の有斐斎弘道館でも数点(同)を並べる。
日本画の顔料を使った抽象的な作風の大舩は「絵だけでなく、絵が置かれた空間全体を作品として考えてきた」と強調する。上賀茂神社では作品前でダンサーの森山開次がパフォーマンスをする。「両神社は建物が建つ前から、人々の信仰の場所だった。森や空と結びつくスケール感を味わってほしい」と大舩。
奈良県葛城市では11月1~7日、「葛城発信アートFAIR2015」が開かれる。今年が1回目となり、国宝の当麻寺本堂など市内16会場で、公募作品を含めた約900点を展示する。注目は本堂にある巨大な厨子(ずし、国宝)の側に並べるシャガールや草間彌生の作品だ。
実行委員で洋画家の弓手研平(ゆんで・けんぺい)は今回の展示について「誰の作品でも国宝とともに並ぶ可能性がある」と指摘。そのうえで「国宝というと格式が高く縁遠いイメージがあるが、当麻寺は我々の生活に溶け込んでいる。そうした身近さに気づいてもらえれば」と話す。
各地で地域おこしの現代アートイベントが盛んだ。世界遺産や国宝が集積する関西では、現代アートとの強い相互作用や鮮やかな対比を味わえるだろう。
(大阪・文化担当 安芸悟)