NY株ハイライト 交錯する米中懸念と政策期待 月末にかけ資金流入も
【NQNニューヨーク=横内理恵】20日の米株式市場でダウ工業株30種平均は4営業日ぶりに反落し、前日比173ドル安の2万5962ドルで終えた。米中貿易戦争や世界景気減速への根強い懸念が引き続き重荷となり、引けにかけて下げが加速した。各国の金融緩和や財政刺激策への思惑などを支えに上昇に転じた場面もあり、懸念と期待が交錯する。今月末にかけて8月の債券相場の急伸(金利低下)を受け、機械的な動きが株式相場を押し上げるとの見方もある。
前日までの3日間で約650ドル上げたダウ平均の戻りは続かなかった。ワシントン・クロッシング・アドバイザーズのケビン・カロン氏は「世界経済を押し下げる米中貿易戦争への警戒感は強まったままだ。前週に2年債と10年債の利回りが一時逆転し、米景気後退の懸念がにわかに強まったことも市場心理に影を落としている」と指摘する。
市場が注目する23日のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演に対する様子見ムードも買い手控えにつながった。「予防的との範囲を超え、従来以上により積極的かつ継続的な利下げ実施を示唆しなければ、失望につながる」(カロン氏)と慎重な声があるからだ。欧州中央銀行(ECB)が大規模な金融緩和に踏み切るとの観測が強まり、トランプ米大統領は連日のようにFRBに大幅利下げを要求する。ただ、景気減速が鮮明なドイツなど欧州経済に対し、米景気は底堅く、現時点で大幅利下げの必要性が高まっているかは疑問だ。
ドイツや中国に続いて米国でも財政拡大の思惑が出始め、相場は上げに転じる場面もあった。19日の米紙は米政府が給与減税の議論を始めたと報じ、トランプ米大統領も20日に「様々な減税を検討している」と述べた。米政府が50年債など超長期債の発行を検討していることも20年の米大統領選前の財政出動への期待につながりやすい。
この日市場で話題となったのが14日の急落についてのJPモルガンのクオンツ・アナリスト、マルコ・コラノビッチ氏のリポートだ。同氏は「相場変動の半分以上がファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に基づいた取引ではなく、コンピューター・プログラムなどを使ったシステムトレードだった」と指摘した。JPモルガンは株安を引き起こしたとされる2年と10年の利回り逆転などの金利変動も半分以上が住宅ローン担保証券(MBS)のヘッジなどを含むテクニカルな取引だったと推定しているという。
米株式市場では最大で750億ドルのコンピューター取引の売りあり、そのうち50%が株価指数オプションなどに関連した取引、20%がモメンタム運用関連の売買、15%が「リスク・パリティ」戦略など変動率に関連した取引だったとみていた。夏季休暇シーズンで流動性が低かったため、相場急変動を引き起こすには十分な大きさだったという。
コラノビッチ氏は目先の株式相場については楽観視している。足元の債券相場の急伸で持ち高に占める債券の比率が高まったこともあって、今月末にかけては相対的に比率が低下した株式に資金が移す動きが活発化するとみる。機関投資家のリバランスで米株式相場は来週末にかけ持ち直す可能性があるものの、米中関係については依然として予断を許さない状況が続く。一時的な戻りが続いたとしても、相場が落ち着きを取り戻したとみるのは時期尚早だ。