円、5カ月ぶり高値 FRB「政治的配慮」に傾斜
20日の東京外国為替市場で、円の対ドル相場が一時1ドル=107円55銭近辺と1月上旬以来の高値を付けた。欧州中央銀行(ECB)に続き米連邦準備理事会(FRB)も19日、金融緩和に前向きな「ハト派」への傾斜を明確にしたことが要因だ。日本時間20日の時間外取引で米長期金利が節目の2%を割り込み、投機筋などの円買い・ドル売りに拍車がかかった。
FRBは19日発表の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明や資料、パウエルFRB議長の記者会見で、年内の利下げ容認に傾いている様子を示唆した。これを受けて外為市場ではドル売りが広がった。そのうえ、米金融政策はこれまでの「統計重視」から「政治重視」にシフトをしたとの見方まで浮上した。低金利を志向するトランプ米大統領の金融政策への影響力が大きくなるとの観測も、円の先高観を強めた。
市場参加者が注目したのは、これまで経済統計を慎重に見極めて政策を決めるとの意味で使われていたとされる「政策判断は様子見する(will be patient)」との文言が削除された点だ。米国の物価上昇率の鈍化などに加えて「政治圧力に屈した面もあるだろう」(みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト)との声が出る。トランプ政権から執拗なまでの利下げ要求に屈した結果、FRB内部でも一気に利下げ容認に傾いたとの見方だ。
これまでのところ米経済は底堅さを保っている。5月の米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数は依然、好不況の分かれ目となる50を上回る水準にある。野村証券の宍戸知暁シニアエコノミストによると、1987年以降に限れば、同指数が50を上回る状況で利下げが実施されたのは1987年と2007年のわずか2回という。過去の経験と足元の米経済の底堅さ、株価水準の高さなどをあわせて考えると、FRBが年内の利下げを示唆したのは「トランプ氏を刺激したくないとの意向が働いたとの見方が出ておかしくない」(野村の宍戸氏)。
金融政策の判断基準が「統計重視」から「政治重視」にシフトしたとの見方が強まれば「米経済の底堅さを理由に円安・ドル高を予想していた市場参加者も、円高予想に転換する可能性がある」(国内証券の為替ストラテジスト)。
一方で日銀は、20日まで開いた金融政策決定会合で、現行の緩和策の維持を決めた。市場の一部で思惑が出ていた、政策の先行き指針(フォワードガイダンス)の変更もなかった。日銀が米欧中銀の動きを追随するかもしれないという市場の期待にはやや沿わない内容で、結果発表を受けて円買い・ドル売りが強まる場面もあった。日米の政策決定会合の結果を見比べた投機筋などの円買い・ドル売りで、円は一段の上昇を試しそうな雰囲気だ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 張間正義〕
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