市場を揺らす2つの「文言削除」
今週は、米連邦準備理事会(FRB)が金融政策の歴史的な転換に踏み切るかもしれない。
日本時間20日未明の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文とFRBの経済見通しの発表、さらにパウエル議長の記者会見まで、金融・資本市場は固唾をのんで見守っている。
「歴史的」とされるのは、予想される利下げが2%台という歴史的な低水準から始まること。FRBは金利政策という最強の「武器」を持つのだが、確保している「弾薬」はわずか2%ほどしかない。いわば、なけなしの2%で、その政策効果を最大限に引き出さねばならない。それゆえに、あえてサプライズ感を強めるバイアスがかかるかもしれない。これが、6月利下げ観測の根拠にもなっている。市場には、まさか月末の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)前に動くことはない、との見方が根強い。一方、FRBからは景況感がこれ以上悪化する前に「予防的」に動く可能性も聞こえてくる。
いずれにせよ、昨年12月までは利上げをあと何回続けるのかが注目されていたのに、その後数カ月で利下げを何回やるかが争点となっている。それゆえ歴史的大転換といわれるのだ。
市場は、今週のFOMCの声明文や記者会見で2つの単語が削除されるか否かに注目している。
まず「忍耐強く=patient」。
経済データを慎重に見極めて決断するという文脈で声明文でも記者会見でも使われてきた。これが削除されれば、いよいよFRBは動く、と市場は身構える。
次に「一過性=transient」。
インフレ率が2%以下に低迷していることを前回のFOMC後の記者会見で問われ、パウエル議長はこの単語を連発した。いずれ、2%目標は達成できるから利下げを急がない、と市場では理解されている。しかし、本当に一過性といえるのかについて市場には違和感が漂う。それゆえ、この単語が消えれば、仮に今月は利下げしなくても7月には0.5%幅の利下げに踏み切るとの観測も出てきた。
なお、同時発表のFRBによる経済見通しの中のいわゆる「ドット・チャート」はFOMC参加者の金利予測を具体的に示すとして注目されてきた。しかし、市場での予測との乖離が常態化し結局、FRBは後手後手にまわり市場予測を追認する結果となってきたので、信頼度が薄れてきた。パウエル議長も、ドット・チャートはいずれ廃止する方向性を示唆している。
日本市場も注目せざるを得ないのは、米利下げがドル安・円高を加速させることだ。
ただし、ヘッジファンドはすでに利下げを見込んでドル売り・円買いのトレードに先走っている。このため「噂で買って事実で売る」という結末となる可能性がある。
FRBと投機筋との神経戦は今回のFOMC後も続きそうだ。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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